韓国の悲願である「核推進潜水艦(以下、核潜)」保有が現実味を帯びてきた。韓米首脳会談の公式成果文書「ファクトシート」を通じ、米国が韓国の核潜建造を承認し、最大の争点であった核燃料調達について協力することで合意したためだ。一方で、実際の建造に至るまでには韓米原子力協定の改定、莫大な運用費、周辺国の反発など、乗り越えるべき壁が少なくない。
韓国内建造を前提に議論
14日に公表された韓米共同説明資料(ファクトシート)には、米国が韓国の核推進潜水艦建造を承認し、「米国は(核潜)造船事業の要件を満たすため、燃料調達策を含め韓国と緊密に協力していく」との文言が盛り込まれた。建造場所は明示されていないが、魏聖洛・大統領室国家安保室長は「韓米首脳間の議論は最初から最後まで『韓国内建造』を前提に進められた」と説明した。これにより「韓国で核潜を建造する」という原則が首脳レベルで事実上確認された、との解釈が出ている。
韓米原子力協定改定必要
しかし、開発への道がそのまま開かれるわけではない。軍事用核燃料を供給するには、現行の韓米原子力協定(2015~35年)の改定、あるいはそれを上回る別途の合意が求められる。現協定は韓国のウラン濃縮を20%未満に制限し、使用済み核燃料の再処理を禁じており、核潜開発の制約要因とされる。
政府は、日本が米国から「包括的承認」を受けた米日原子力協定レベルへの改定を目標としている。しかし米国政界では、党派を問わず韓国の核武装可能性を懸念し、濃縮・再処理権限の拡大には否定的だ。加えて今回のファクトシートが「確固たる最終決定文」と見なし得るかどうかも疑問視される。
韓国は米国・英国・豪州の安保枠組み「オーカス(AUKUS)」の事例に注目している。オーカスは米国原子力法91条の「例外条項」を適用し、軍事用燃料の供給を可能にした。しかし首脳間合意後も米議会の批准を経なければならず、韓国が短期間で協定を改定したり「第二のオーカス」を実現したりするのは容易ではないとの見方もある。
産業的な波及効果
国内では、今回の合意がもたらす戦略的・産業的効果への期待も大きい。K防衛産業の地上(戦車・自走砲)・空中(戦闘機)中心の構造が、海洋戦略兵器体系にまで拡張される転換点との評価が出ている。
核潜は燃料補給なしで長期間潜航でき、ディーゼル潜水艦とは比較にならない作戦持続能力を備える。北韓の核・ミサイル脅威が高度化するなか、抑止力を強化するだけでなく、インド太平洋全域へ作戦範囲を広げられる点も利点とされる。
産業的波及効果もある。核潜は原子炉・AI・ロボット・海洋技術が集約された先端複合システムだ。とりわけSMR技術を基盤に原発・海洋プラント・自律無人潜水艇などへ拡張し得る点から、産業技術全般を発展させる効果が期待できるとの声もある。
有事での実効性は「脆弱」
だが核潜は、韓国の安保環境に照らせば「過剰戦力」との批判も存在する。主要作戦地域である西海(黄海)の平均水深は44メートルと浅く、東海沿岸も複雑な地形だ。核潜の強みは深海域での長距離・潜伏航行にあるが、韓半島周辺海域はその条件とかけ離れていると指摘される。
さらに建造費だけでも最少3000億~6000億円規模とされ、1日の運用費は約25億円に達すると推計され、単なる武器導入を超えた超高コスト構造である点も重荷となる。
決定的なのは、韓半島有事で韓国軍が実際に対峙する北韓軍の主力は陸軍と砲兵戦力であることだ。海上戦力では既に韓国が圧倒的優位にある状況で、あえて高コスト・低効率の核潜を追加導入する必要があるのかという根本的疑問も提起される。
今回の韓米合意は、李在明政権がトランプ政権から「曖昧な約束」を得るため、過度な対価を払った結果との分析もある。3500億ドル規模の対米投資と武器購入の約束が、韓国の財政能力を超える「オーバーペイ」という批判だ。今後の実務協議で韓国が技術的自律性を確保できるのか、莫大なコストに見合う実質的安保効果を立証できるのかが課題となる。
▼韓国軍の初代潜水艦「張保皐(チャンボゴ)艦」。来月の退役を前に、19日、慶南・昌原市鎮海軍港から出航している
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