特定国に依存、課題が浮き彫りに

　電気自動車・ＡＩサーバー・半導体など、先端産業の核心素材である「レアアース」に対し、中国が輸出規制を強化した影響が、韓国産業界全体に波紋を呼んでいる。グローバルサプライチェーンが揺らぐ中、韓国の主力輸出産業である自動車・電子・バッテリー業界が、直接・間接的な影響を受ける恐れがあるとの懸念が強まっている。

　最近、一部メディアが「現代自動車が中国産レアアース永久磁石を確保できず、先行開発テストが遅れている」と報じたが、現代自動車は「事実無根だ」と否定した。
業界では今回の騒動に対し、特定国に依存する原材料が「武器」と化した場合、産業全体が脆弱化しかねないという構造的課題を浮き彫りにした事例とみている。

中国が掌握するレアアース供給網

レアアースは、ネオジム・ジスプロシウム・プラセオジムなど１７種類の金属元素から成る。電気自動車の駆動モーターや冷却ファン、電動パワーステアリング（ＥＰＳ）モーターなど、高効率モーターの製造に欠かせない素材だ。高い磁気特性を持ち、高出力化・小型化・軽量化を支える最重要材料とされている。
問題は、世界のレアアース供給網の８０～９０％を中国が握っている点だ。採掘から精錬、合金化、永久磁石の製造に至るまで、ほぼすべての工程を中国が独占している。
環境汚染や高コストを理由に先進国が大規模生産から撤退した結果、中国への依存度が一段と高まった格好だ。

現代自動車「支障なし」と説明

中国政府は今年４月から、一部のレアアースおよび永久磁石の輸出規制を実施している。その結果、４～５月の２カ月間における中国のレアアース永久磁石輸出量は前月比約５０％減少したとの集計が出ている。
こうした状況の中、一部メディアは「現代自動車が中国産永久磁石の確保に苦戦し、新車の先行開発テスト用サンプルの入手が遅れている」と報じた。
しかし現代自動車は１２日、「永久磁石の供給問題によって車両開発業務に支障が生じた事実はない。中国現地に社員を派遣して調整しているとの報道も同様に事実ではない」と全面否定した。
一方、業界関係者は、「現代自動車の説明とは別に、電気自動車用モーターの永久磁石における中国依存度が８０～９０％に達している現状そのものが最大のリスクだ」と指摘する。実際、永久磁石は電気自動車およびハイブリッド車の心臓部に当たる部品であり、短期間の供給支障でも開発日程やコスト、量産計画に大きな影響を及ぼしかねない。

脱・中国は選択ではなく必然

韓国産業界はすでに供給網の多角化に動き出している。
現代自動車は昨年から全社的な部品調達方針を見直し、北米市場向け完成車部品の「脱・中国化」を内部方針として定めた。レアアースや永久磁石など、一部の核心部品については供給先の分散化と、原材料産地の検証作業を並行して進めている。
代替供給源としてはオーストラリア、米国、ベトナムが挙げられるが、脱・中国の実現は容易ではない。中国に比べコストが高く、大量生産・精錬能力が不足しており、調達費や物流費の上昇も避けられない。このため短期間で完全な脱・中国を実現するのは難しいというのが業界の一致した見方だ。
政府も米国・日本・インドなどと「レアアース供給網協力体制」を構築し、対応を進めている。だが、こうした短期的な対策だけでなく、中国が供給網を戦略的に「武器化」している現状を解消するには、「国家戦略資源に関する中長期的なロードマップ」が欠けているとの指摘もある。
中国のレアアース輸出規制は、一時的な供給不足にとどまらず、韓国産業全体が特定国の供給網に過度に依存しているという構造的脆弱性を浮き彫りにした。電気自動車、バッテリー、半導体、防衛産業など、幅広い分野が影響を受ける。供給網の多角化と脱・中国戦略は「選択」ではなく「必然」だ。企業も政府も、もはや一刻の猶予も許されない。

現代自動車蔚山工場の埠頭で船を待つ輸出用自動車