3日、北京で開催された中国「抗日戦争勝利80周年記念行事」において、北韓の金正恩総書記が天安門のひな壇に登場し、習近平国家主席の両脇をロシアのプーチン大統領とともに固めた。その堂々たる姿は、単なる儀礼的な参加を超え、国際社会に強烈なメッセージを投げかけるものだった。
さらに注目を集めたのは、金正恩氏の実娘であるジュエ氏が公然と姿を現したことである。
金正恩氏は1日、通称「1号列車」と呼ばれる専用列車で平壌を出発、翌2日に北京へ到着した。北京駅では中国共産党序列5位の蔡奇・政治局常務委員や王毅・政治局員兼外相といった要人が出迎え、厚遇ぶりを示した。
その場に現れたジュエ氏は、これまで国内の軍需工場や弾道ミサイル発射実験に同行する姿が報じられてきたが、国外に足を踏み出すのは初めてであり、外交的意味合いが強調される形となった。
この「初外遊」は、単なる家族的演出にとどまらず、北韓が国際社会に対し「白頭の血統」を強く印象づける狙いを秘めていると見られる。父から子へと継承される革命の正統性を、国内向けには体制安定の証として誇示、国外に対しては威信の表明として提示したのである。
特に北韓の体制は、指導者個人と血統に依存する性質が強く、ジュエ氏の存在を国際社会の舞台に可視化させることは、後継者としての地位を固める布石といえる。
さらに今回の訪中は、北韓のみならず中国とロシアにとっても大きな戦略的意味を持っている。中朝関係の改善が進めば、台湾問題で圧力を強める中国にとって相対的な優位性を確保する助けとなりうる。
ロシアにとっても、ウクライナ戦争が長期化する中での北韓の軍事支援は現実的な価値を持ち、協力関係は当面続くとみられる。三国の結びつきは、米国に二正面作戦を強いる複雑な状況を生み出し、国際秩序に揺さぶりをかけている。
思い起こせば北韓は2002年、当時の米国大統領ジョージ・W・ブッシュからイラン、イラクと並んで「悪の枢軸」と名指しされた。
しかしその評価はしばしば誇張であったと批判され、実際の戦略的連携は限定的だった。それと異なり、今日の中露朝の結束は単なる修辞を超えた現実味を伴い、「脅威の枢軸」として自由民主主義陣営の前に立ちはだかろうとしている。
ジュエ氏は軍事パレードのひな壇に立つことはなかったものの、今回の初外遊によって「後継者」としての存在感を一層強めたのは間違いない。
もしこの訪中が正式な後継への第一歩だったとしたら、後世から彼女は、「脅威の枢軸の申し子」と呼ばれることになるかもしれない。
その可能性は、北韓の未来と東アジアの地政学に深い影を落としている。
高英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。
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