「尹錫悦大統領による戒厳令の発令と、軍警を動員し国会を封鎖するという試みは重大な違憲である」
憲法裁判所で、裁判官8人の全員一致により罷免が決定した尹錫悦大統領の弾劾裁判を、一言でまとめるなら上記の文言となる。昨年12月3日に非常戒厳令が発令されてから122日目、12月14日に弾劾訴追案が国会を可決してから111日目だ。
憲法裁は、「戒厳令の発令要件違反」「布告令の違憲および違法性」「軍警を動員し国会の封鎖を試みたこと」「政治家の逮捕を指示したこと」「中央選挙管理委員会の支配を試みたこと」など、弾劾訴追理由の5項目をすべて認めた。
これにより、初雪とともに幕を開けた一連の弾劾騒動は、桜の開花とともに幕を閉じた。尹大統領は韓国において、任期を終えることなく辞任した2人目の大統領となった。朴槿惠元大統領に続き、保守から当選した大統領の退陣だ。
尹大統領は判決後、「大韓民国のために働くことができたのは大きな名誉だった。皆さんの期待に応えられず、残念であり、申し訳ない」とのコメントを発表した。判決内容には触れないまま、「大韓民国と国民のために祈り続ける」との言葉を国民に送った。
弾劾の傷は深い。判決の結果に不服を唱える国民が多いからだ。判決前日の3日に発表された、四つの世論調査機関が合同で実施したアンケート結果によると、「判決の結果が自身の意見と異なる場合は受け入れない」が44%、「憲法裁を信頼していない」が回答者の46%に達した。
保守陣営では、憲法裁による大統領弾劾裁判が「罷免を前提に行われたもの」であるとの疑いを拭いきれずにいる。左派が支配する国会と、司法府が仕組んだシナリオにはめられた、との認識が根強いからだ。
憲法裁の判決は、世論の予測に沿った結果となった。8対0による罷免、または4対4で棄却、との見方が強かった。前者の場合は「国民統合のため」との建前を理由にすることができる。一方の後者は、二極化した世論の現況を反映しつつ、裁判官の責任を免れる妙策となり得るからだ。
戒厳令当時、武装した軍警が街頭に出現するという「絵面」は、韓国人のトラウマを刺激した。これに対し憲法裁は「大統領が軍警を動員し国会の封鎖を試みたことは違法かつ違憲である」と判断した。判決文には唯一、巨大野党の独断専行を問題視する箇所が見受けられた。「弾劾訴追案を発議する回数を制限する法律が必要」との意見だ。つまり、「共に民主党」の主導で行われた国務委員に対する度重なる弾劾と、強引な法案の可決といった専横を阻止する法律を制定せよ、との趣旨だろう。
(ソウル=李民晧)
4月4日、憲法裁判所で行われた尹錫悦大統領に対する弾劾裁判の様子
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