2025年4月4日11時22分。憲法裁判所による尹錫悦大統領の弾劾審判で罷免が決定した瞬間、韓国は新大統領の選出という課題を抱えた。法定期限は6月3日。保守は「共に民主党」の李在明陣営を抑え、勝利を手にすることができるのか。対立と混乱を乗り越え、立場の異なる意見をまとめ大同団結を果たす姿勢が求められている。
(ソウル=李民晧)
■弾劾反対者の声なき叫び
罷免が言い渡された瞬間、安国洞交差点(ソウル鍾路区)には歓声と沈黙が交錯した。大統領の復帰を信じていた保守の支持者らは肩を落とした。弾劾裁判で5対3、あるいは4対4で棄却されることを期待していた支持者らは、8対0という結果を目の当たりにした瞬間、失望のあまり声すら出せない様子だった。泣いて激しく抗議する人もいたが、むしろそのような姿はまばらだった。
予定されていた保守派の集会も相次いでキャンセルされた。「Yoon is Back」を掲げた大統領国民弁護団の龍山集会、「SaveKorea」を掲げたプロテスタント系団体による汝矣島集会などだ。「SaveKorea」は、憲法裁判所の決定に従うという立場を明らかにした。
そうした中、活動を続けている保守派の集会は、全光焄牧師率いる「大韓民国を正しく立て直す国民運動本部(大国本)」と自由統一党による国民大会だ。大国本は雨天にもかかわらず、5日の週末集会を開催し、約2万人(警察発表、主催者発表は100万人)が光化門に集まった。参加者は「反国家勢力撲滅」「国民抵抗権発動」などのプラカードを掲げ、「詐欺弾劾、一切無効」などのスローガンを叫んだ。大国本は「不服従闘争(従わずして闘争を続ける)」「国民抵抗権発動」を展開する構えだ。
■「異常」な司法府、信頼が失墜
今回の大統領弾劾裁判は、司法システムに関する多くの欠陥を露呈した。高位公職者犯罪捜査処(公捜処)は、内乱罪に対する捜査権を有していないにもかかわらず、内乱を名目に大統領に対する逮捕令状の発行を要請した。加えて、ソウル中央地裁が令状の発行を拒否すると、ソウル西部地裁から令状を発行させるよう裁判所に持ちかけた。「令状発行のためのはしご」とやゆされ、公捜処と裁判所は自ら法に背いたと批判された。
ほかの権力機関から独立を保っているはずの憲法裁判所も恥ずべき結果を晒した。裁判初期、国会が「内乱罪」を弾劾訴追理由から除外したにもかかわらず、憲法裁は弁論の終結時までこれに対する見解を留保した。
弾劾理由の第1項目に掲げられた「内乱」が削除された状態で弾劾裁判が進められたことに納得できない国民も多かった。弁論の終結後、40日近くも判決を保留にしていた憲法裁の行為は、「法律に則った判断ではなく、世論に左右されている」という印象を与え、不信感を増幅させた。
こうした不可解な裁判の過程は、憲法裁の決定を「受け入れがたい」という国民を4割超(44・8%、4日、リサーチビューによる世論調査)も生む結果となった。
法律の専門家が違法的判断で法を執行するという「異常」の連続。それこそが4カ月に及ぶ弾劾裁判が残した韓国司法府の恥ずべき素顔だ。
■李在明代表を破る候補は
弾劾審判が残した疑念と制度的悪用を解消する間もなく、韓国は次期大統領を選出する準備に突入した。選挙は、法定期限である罷免決定後60日以内に実施されるため、6月3日までに行わなければならない。
選挙の構図は至ってシンプルだ。野党「共に民主党」からは李在明氏の出馬が確実視されている。党内で李氏を牽制する候補が存在しないからだ。一方、与党陣営の候補者は乱立している。金文洙・雇用労働部長官、呉世勲・ソウル市長、洪準杓・大邱市長、韓東勲・元国民の力代表らの名前が挙がる中、現時点では金長官が最も高い支持を得ている。
 | | 罷免が決定した翌日の5日、「国民不服従闘争」を展開する光化門集会の参加者ら |