憲法裁判所で行われている尹錫悦大統領の弾劾裁判が25日の弁論を最後に終了した。大統領の非常戒厳宣布に対する違憲性が問われた裁判は結果を待つばかりとなった。判決は3月14日頃までに行われる見通しだ
(ソウル=李民晧)
■キーパーソン3人の証言
20日午後、ソウル鍾路区の憲法裁判所で行われた尹大統領に対する弾劾裁判では、判決の行方に大きな影響を及ぼす3人の証人が出廷した。
この日、韓悳洙・国務総理は、昨年12月3日に発令された非常戒厳令の直前に開かれた国務会議について「通常の国務会議とは異なり、形式的な欠陥があったと思う」と陳述した。韓総理は国会側の弁護団から「戒厳令に賛同していた人がいたのか」と問われると、「みんな心配し躊躇していたことを覚えている」と答えた。
野党が多数を占める国会が相次いで国務委員の弾劾を行い、政府予算案の減額を可決したことについては「多数派による一方的な暴走である」として、大統領の拒否権行使の正当性を大筋で認めた。
昨年の政府予算案を与野党の合意を得ずに野党が単独で可決したのは、1948年の憲法制定以来初の事態であり「極端な立法独裁の典型」と指摘されている。尹大統領側はこの点も戒厳令を発令した理由として挙げている。
同日、2人目の証人として出廷した洪壯源・前国家情報院第1次長は、いわゆる「政治家の逮捕者リスト」と称されるメモについて申し立てを一変させた。
自身が呂寅兄・前国軍防諜司令官との通話メモを残したという時間と場所が先の陳述と変わった。公開された国情院の監視カメラ映像も洪壯源・前次長の動線と異なっており、同氏の供述は信憑性に欠ける印象を受けた。
尹大統領は洪壯源・前次長が示した逮捕者リストについて「私と通話したことを『大統領から逮捕の指示を受けた』とこじつけて内乱と弾劾を工作した。(洪壯源・前次長が)解任されたので、大統領による逮捕の指示があったと話を盛ったのがこのメモの真相だ」と主張した。
3人目の証人として出席した趙志浩・警察庁長は陳述を拒否する姿勢を見せた。国会の封鎖と政治家に対する逮捕の指示があったか否かについても口を閉ざした。その理由について趙庁長は「関連する内容が公訴事実に含まれているから」と述べた。
警察と検察による先の調査で、趙庁長は戒厳令の発令当時、尹大統領から6回電話を受け、国会議員を逮捕するよう指示を受けたと供述した。
一方で、事情聴取を受けた場所が病院のベッド上だったことも明らかになり、当時の供述内容は信憑性が低いと見る向きもある。
■憲法裁判官の任期延長法案に「不公平」の指摘も
尹大統領は11回にわたって行われた弁論期日のうち8回出廷し、被請求人として自ら弁護する姿を見せた。尹大統領側は内乱罪の成立自体を否定しつつ、戒厳令の発令前に国務会議を開催したため、非常戒厳令の要件を満たしていると述べた。
今回の弾劾審判は、手続き上の問題や裁判官の一部が左派系判事の集まり「ウリ法律研究会」出身である点など、憲法裁判所の公平性を問う議論が噴出した。
こうした中、「共に民主党」は憲法裁判官の任期を自動延長する内容の法案を提出した。4月に裁判官の任期が満了する文炯培、李美善両氏の任期を延長すべく画策したとの疑いがもたれている。これは、法を悪用した裁判官の買収行為であると疑わざるを得ない。
左派の裁判官を増員し、弾劾裁判やその他の裁判においても優位に立とうとする試みであるとも指摘されている。
こうした影響を受け、憲法裁判所に対する世論の信頼も低下している。
韓国ギャラップの調査によると、憲法裁判所の信頼度は52%で、1カ月前より5%低下した。弾劾反対派の不信感にいたっては84%にも達している。
憲法裁判所は韓悳洙・国務総理に対する弾劾裁判を2カ月引き延ばした挙げ句、わずか1日の弁論で切り上げたこともある。国の非常事態において、国政の要でもある総理への扱いとしては理解しがたい行為だ。さらに、弾劾裁判のシナリオを作ったと指摘されている憲法研究官の一部が中国国籍ではないかとの疑惑が持たれている。
このように憲法裁判所に冷ややかな視線が注がれる今、最終章ともいえる判決の言い渡しを待つのみとなった。
厳格に法に則り、公正な判断が下されるのか。大統領には復帰と罷免のどちらの道が待ち受けているのか。判決は早ければ3月7日、遅くとも3月14日頃には下される見通しだ。裁判官の満場一致を試みるなら、もっと遅くなるかもしれない。
 | | 22日、大田市で開かれた尹錫悦大統領の弾劾反対集会。およそ1万5000人が参加した(警察発表) |