憲法裁判所で行われている尹錫悦大統領に対する弾劾裁判で、争点となっているのが「不正選挙」問題だ。11日の第7回弁論では、中国政府による選挙介入疑惑と、中央選挙管理委員会が中国共産党の指導者を称えている映像について論争を繰り広げた。また、当該動画の登場人物の中に対外世論と選挙工作に関与する人物がいた点についても指摘した。
(ソウル=李民晧)
この日の弁論で、尹大統領側の車基煥弁護士は、近年の主な選挙において、選挙管理委員会が中国人の開票スタッフを採用した事実を指摘した。
車弁護士は証人として出廷した金龍彬・選管委事務総長に対し「2022年の大統領選挙、及び昨年の総選挙などで、正社員にせよ非正規雇用にせよ、中国人を開票スタッフとして採用した事実はあるか」と尋ねると、金事務総長は「中国国籍を持つ者が1人いた」と認め、「昨年の総選挙においては(外国籍の開票スタッフを)採用しないという指針を定めた」と述べた。
20年4月15日に行われた総選挙と、22年に実施された大統領選挙では、中国国籍の開票スタッフ1人が選挙区である銀平区で活動した事実が確認されている。だが、全国の選挙区で全数調査を行ったわけではない。これについて、金事務総長も「(全国規模では)分からない。選管委は開票スタッフの国籍に関する資料を受け取ったことがない」と答えた。
選管委制作の動画に登場した中国共産党の指導者たち
17年、選管委は独自のYouTubeチャンネルで、中国共産党の指導者を称える内容のドキュメンタリー動画をアップした。選管委が運営するチャンネル「韓国選挙放送」のドキュメンタリーコーナー「民主主義とリーダーシップ」の中に、「1%の人しか知らないリーダーの秘密、シークレット」というタイトルで計10本の動画を上げた。
1話と2話は中国共産党序列4位の王滬寧、3話と4話は鄧小平・元総書記、9話と10話は周恩来・元首相を取り上げた。動画には全5人の外国人政治家が登場し、そのうち3人が中国共産党の指導者だ。残る2人はアンゲラ・メルケル独首相、マイク・ポンペオ米国務長官だった。
車弁護士はこれに対し、「王滬寧を国内で知る人はほぼいない上、(中国共産党で)対外世論と選挙工作に関与する人物として台湾メディアが報じた。そのような人物をあえて1話と2話で取り上げた理由は何か」と疑問を呈した。すると、金事務総長は「(当該の内容を)知らなかった」と回答した。
動画の出演者たちは王滬寧について「中国のブレーンであり、キングメーカー」「知恵袋」と評し、23年間にわたり習近平、胡錦濤、江澤民ら3人の中国国家主席の側近として政策を立案してきた人物であるとコメントしていた。
自由民主主義国家の独立機関である選管委が、民主的な選挙制度を是としない中国共産党体制の指導者たちを宣伝する動画を上げること自体、ナンセンスだと言わざるを得ない。
また、本動画を制作した目的は「世界のリーダーを知り、選挙の重要性を再認識してもらう」というものだが、それが本来の目的に合致しているかという点については首をかしげるところだ。中国本土には個人の自由と権利を最大限保障する民主的な選挙制度が存在しないからだ。現在、問題の動画は存在しない。選管委が削除したからだ。
「共に民主党」はスパイ容疑への捜査依頼をも弾劾
尹大統領の弁護団は13日、非常戒厳発令について「スパイ捜査まで阻もうとする利敵弾劾を止めるための措置だった」と抗弁した。その上で、共に民主党などが「前政権の標的監査」を理由に弾劾し職務を停止させた崔載海監査院長の例を挙げた。
崔院長は、文在寅政権時代に国家安保室の室長を務めた鄭義溶ら4人に対する捜査を検察に依頼したところ、国会によって弾劾された。鄭室長は、THAADの配備に関する情報を駐韓中国領事に流したことでスパイの疑惑がもたれていた。
弁護団は「大統領は、軍事情報を中国に流す行為を、国家安全保障を崩壊させる重大なスパイ行為だとみなした。スパイ行為に対する捜査依頼ですら弾劾という政治的手段で阻もうとする反国家勢力の実体を確認し、非常戒厳令の宣布にいたった」と述べた。
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