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2025年02月12日 11:38 |
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【寄稿】「反統一団体」となった朝鮮総連 朴容正・ジャーナリスト |
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「南北統一」拒否の金正恩宣言への忠誠誓う
「わが民族同士」「平和統一」などの活動一切禁止
突然「南北は別民族」と主張《金正恩演説》
「南北分断」解消ではなく「恒久化」を宣言
「朝鮮戦争」の暫定的な軍事境界線を国境化
総連綱領は「民族団結で平和統一成就に全力」
象徴的な許宗萬総連議長「2025年新年辞」
北朝鮮の金正恩党総書記は、2023年12月末の党中央委員会全員会議および2024年1月の最高人民会議での演説で、「南北は別の民族であり敵対的な二国関係」だとして「南北統一」を否定。「わが民族同士」が「平和的に南北統一する」という、それまでの北朝鮮政権の対南・統一政策を転換し、「南北統一拒否」を宣言した。これに伴い、日本における北朝鮮政権の忠実な代弁団体である総連(朝鮮総連)は「敬愛する金正恩党総書記に永遠の忠誠を尽くす」ことをあらためて誓い、各級機関、団体で「同族、同質関係としての南北」「わが民族同士」「平和統一」などの象徴的な活動を一切禁止し、「南北統一」に反対する「反統一団体」となった。総連は今年、結成70周年を迎えるが、許宗萬議長の「2025年新年辞」には「わが民族同士」「南北統一」の語句は一切なく、南北統一拒否・分断体制恒久化を宣言した「敬愛する金正恩元帥様」への忠誠が強調された。
●ちゃぶ台返しの23年末「党中央委全員会議演説」
金総書記は、2023年12月末の党中央委員会第8期第9回全員会議(26日~30日)での演説で、新年の政策方針に言及。韓国との関係について「北南関係は、これ以上、同族関係、同質関係ではない敵対的な二国間関係、戦争中にある両交戦国関係に完全に固着された」と表明した。さらに「われわれを『主敵』と宣布し、外部勢力と結託して『政権崩壊』と『吸収統一』の機会をうかがう連中を和解と統一の相手とみなすのは、これ以上われわれが犯してはならない誤りである」「わが国の民族史から『統一』『和解』『同族』という概念自体を完全に除去しなければならない」と強調した。
「わが民族同士・平和統一」を至上課題と主張してきたこれまでの対南・南北統一政策を否定・放棄することを明らかにした金総書記は同時に、「万一の場合、発生しうる核危機事態に迅速に対応し、有事の際に核戦力を含むすべての物理的手段と力量を動員して南朝鮮の全領土を平定するための大事変の準備に、引き続き拍車をかけていくべきである」と指示した。
金総書記は、24年1月15日の最高人民会議第14期第10回会議での「綱領的な施政演説」で、「今日、80年間の北南関係史に終止符を打つ」と宣言した。これまでの「南北統一」に関する憲法の表現や原則の削除、関係建築物の撤去について言及。そうした作業を通して「(韓国を)『和解』や『統一』の相手であり『同族』だという現実と矛盾した既成概念を完全に消し去る」ことが必要だと再強調し、南北が長年掲げてきた統一の3大原則である「自主、平和統一、民族大団結」(1972年7月4日の南北共同声明に由来)という表現を憲法から削除すべきだと主張。憲法を改め、韓国を「第一の敵対国、不変の主敵」と明記するよう指示した。さらに、「朝鮮半島で戦争が起こる場合には、大韓民国を完全に占領、平定、修復し、共和国領域に編入させる方針も憲法に盛り込むべきだ」と、あらためて「韓国併合」準備を促した。
この最高人民会議では、韓国との交流の窓口役を担ってきた祖国平和統一委員会をはじめ、金剛山国際観光局や民族経済協力局といった対南機関の廃止を決定した。2000年の金大中・金正日「6・15南北共同宣言」後に連結された南北の鉄道を「完全に断ち切る」ことや、01年8月に平壌に建立された巨大な「祖国統一3大憲章記念塔」の撤去も打ち出された。これに先立ち、1月13日付「労働新聞」は「北南関係の改善と平和統一のための連帯機構だった6・15北南共同宣言実践北側委員会、祖国統一汎民族連合北側本部、民族和解協議会、檀君民族統一協議会など。われわれの関連団体をすべて整理することにした」と伝えた。
●南北首脳間の「合意・宣言」をすべて反故に
祖国平和統一委員会が03年に開設した対外宣伝用公式ウエブサイト「わが民族同士」も閉鎖された。そして「国歌」を始めとする歌の歌詞や朝鮮半島の地図やマークなどから「統一」やそれを連想させる言葉やイメージ、たとえば朝鮮半島の別称である「三千里錦?江山」や南北と第三国に居住する人口を総計した「8000万同胞」なども削除している。南北軍事境界線(休戦線)を国境線とし、韓国につながる道路と鉄道の爆破に続き、軍事境界線の北側にコンクリート製の壁を設置する作業を進めている。
金総書記が「南北統一」を否定し、「同族関係、同質関係ではない敵対的な二国間関係」、「交戦国関係」と公式化したことは、自らが文在寅大統領と署名した18年4月27日の「朝鮮(韓)半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」の破棄にとどまらない。祖父の金日成主席が「北と南の責任ある当局が民族の前に誓った誓約だ」だと言明した「南北基本合意書」(南北間の和解と不可侵および交流・協力に関する合意書。92年2月発効)にある「双方の関係は国と国の関係ではない。統一を志向する過程で暫定的に形成された特殊な関係である」とした基本合意の否定。そして、父の金正日総書記が金大中大統領との史上初の南北首脳会談で「国の統一のための南側の連合制案と、北側の低い段階の連邦制案が、互いに共通性があると認定し、今後、この方向で統一を目指していく」ことにした「6・15南北共同宣言」を反古にするものである。
「6・15南北共同宣言」は第1項で「南と北は国の統一問題を、その主人公であるわが民族同士で互いに力を合わせ、自主的に解決していくことにした」と明記している。以来、「わが民族同士」は、北当局および総連が「南北の融和・統一」を主張するときに最大のキーワードとして喧伝されてきた。金総書記の「南北統一拒否宣言」は、北側が「6・15北南共同宣言において北と南が合意した統一方式」であり、「7・4北南共同声明の精神に則った平和統一実現の唯一の方途。最も正当で現実的な統一方案」だと主張・喧伝してきた「高麗民主連邦共和国」方案(金日成主席が1980年10月の第6回党大会で提唱。異なる制度に基づく二つの政府を南北に残した上で連邦制国家として同一民族による単一国家を作る。1民族1国家2制度2政府)の放棄にほかならない。
●「5・28金正恩書簡」と正反対の「13項目指示」
北朝鮮は、昨年2月に総連に対して、「対南政策路線転換方針」(南北はそれぞれ別の民族だして南北統一を拒否。「連邦制方式統一」放棄。南北軍事境界線を国境線化)を正確に把握し、周知徹底するようにと以下のような「13項目」の指示を行った。総連幹部・活動家にとっては衝撃的なものであった。
①わが党と共和国政府の新しい対南政策路線転換方針を正確に把握すること。
②総連活動家たちの転換方針に対する正確な認識と思想転換が最優先で切実な課題。
③各級機関、団体で「同族、同質関係としての南北朝鮮」「わが民族同士」「平和統一」などの象徴的な活動を一切禁止。
④大韓民国の民主的な人士、民族教育に理解を示し朝鮮学校を支援しようとする団体、人士との関係を完全に遮断。
⑤組織内の各種文書、情報紙に転換方針に反する言葉を一切使用しないこと。
⑥首領様、将軍様のお言葉に言及する際、同族とみなされる表現、文章は引用禁止。
⑦事務所、学校などの各種展示物で傀儡(韓国)たちを同族と誤導する残滓的な単語、スローガン、宣伝画、美術作品などは全て取り替え。
⑧すでに発行された出版物(教科書も)などはそのままにしておくが、教育と学習で一切取り扱わず、再出版する場合は全面修正する。
⑨各級朝鮮学校で教員が作成するシラバス等で同族と誤導する表現は禁止。
⑩高2現代史3編取扱禁止、高1国語14課、高3国語14課、小5朝鮮地理9課の取扱禁止。
⑪文芸作品、歌の歌詞にある三千里錦繍江山、わが同胞、白頭から漢拏までなど、同族と誤導する歌詞は一切歌わないこと。
⑫学校の校歌もそのような歌詞があれば変更する。朝鮮地図が描かれた旗、シャツ、商標など一切使用禁止。
⑬過去に出版された朝鮮地図の使用禁止。
総連中央本部は、これに伴い、総連のホームページでは「6・15北南共同宣言の旗印の下に、在日同胞の民族的団結と北と南、海外同胞とのきずなを強化・発展させ、反統一勢力を排撃し、連邦制方式による祖国の自主的平和統一を成就するために全力をつくす」ことなどが記された04年5月の総連第20回全体大会で採択された「綱領」へのアクセスをできなくした。国際統一局を国際局に変更し、傘下の「在日朝鮮人平和統一協会」は解散させた。総連とその別働体である「韓統連」(在日韓国民主統一連合)によって運営されてきた「6・15南北共同宣言実践日本地域委員会」もなくなった。
「13項目指示」は、金総書記が、22年5月の総連第25回全体大会の参加者に宛てた「歴史的書簡」と呼ばれる「5・28書簡」での、①「祖国統一は、これ以上引き延ばすことのできない民族至上の課題であり、総連と在日同胞に提起されている最も重大な愛国事業です」②「総連の祖国統一活動は本質上、金日成同志と金正日同志が打ち出し堅持してきた一つの朝鮮路線を擁護し、貫徹するための聖なる愛国闘争です」③「総連と在日同胞は、わが党と共和国政府の祖国統一路線と方針を積極的に支持・擁護し、それを内外に広く宣言しなければなりません」④「総連は民族大団結の旗印の下で『民団』をはじめ組織外の同胞との民族団結事業を強化して統一愛国力量をさらに拡大し、彼らとの共同行動、共同闘争を活発に展開しなければならない」――との呼びかけと正反対の内容であった。
これまで総連は、北側の指示に従い「連邦制統一方案」を「6・15北南共同宣言において北と南が合意した統一方式」「最も正当で現実的な統一方案」だと喧伝してきた。たとえば、2019年、「金正恩新年辞」を受けて発表した1月9日付の南昇祐副議長談話で「北、南、海外の連帯・連合を強化して連邦制統一の機運を高めるのに尽力する」とし、「民団傘下同胞らをはじめとした広範囲な在日同胞らとの民族的団合を強化して北南宣言(6・15南北共同宣言)の履行のための運動をもっと盛り上げる」と表明。許宗萬議長は、同年2月15日の「金正日大元帥様誕生77周年慶祝在日本朝鮮人中央大会」での報告で「敬愛する最高領導者金正恩元帥様は、我々は連邦制統一を主張するとし、北と南は相手側に存在する互いの思想と制度を認めあい、全民族の指向と要求に合わせ連邦国家を創立する道に進まなければならないと述べられた。総連は、北南宣言を積極貫徹し、連邦制方式による祖国統一成就の機運を高めるのに共和国の海外僑胞組織としての自らの重大な使命と役割を果たしていく」とあらためて強調した。
そして金総書記が「5・28書簡」を送った22年の総連第25回全体大会で、朴久好第一副議長は「中央委員会活動報告」で「総連は主体的な統一愛国力量を決定的に強化して、自主的統一運動を新しい段階へ発展させることで自らの使命と任務を果たしていく」「総連は祖国解放80周年になる2025年を目指して、民族自主の旗印のもと、北、南、海外の連帯連合を強化し、北南宣言を支持、実現するための全民族あげての運動を大きく高揚させていく」と力説していた。
●「南北同胞」に背を向け「金王朝存続」第一に
それにもかかわらず総連中央は、南北同族否定・南北統一拒否・南北分断恒久化のための「13項目の指示」を無条件で受け入れたのである。昨年9月に北朝鮮建国76周年行事に参加するために平壌を訪問した総連代表団(高徳羽東京本部委員長ら6人)は、南北分断の恒久化を宣言した金総書記に「永遠の忠誠を尽くす」との書簡を送っていた。許宗萬議長の「2025年新年辞」では、「敬愛する元帥様の歴史的な5月28日書簡を高く奉じて」云々と述べているが、「これ以上引き延ばすことのできない民族至上課題である祖国・南北統一」「祖国統一は総連と在日同胞に提起されている最も重大な愛国事業」「民族大団結の旗印の下で『民団』をはじめ組織外の同胞との民族団結事業の強化」などへの言及は一切なく、「敬愛する金正恩元帥様」の「卓越した領導」を強調した。
総連の「綱領」には「6・15北南共同宣言の旗印の下に、在日同胞の民族的団結と北と南、海外同胞とのきずなを強化・発展させ、反統一勢力を排撃し、連邦制方式による祖国の自主的平和統一を成就するために全力をつくす」と明記されている。にもかかわらず、総連中央は、「わが民族同士・南北統一」という至上課題を否定し、「世襲独裁体制」の代弁・擁護者して「金日成王朝の存続」を自らの最大の使命と役割としていることを明白にした。総連は、南北緊張・南北分断・民族分断の恒久化を図る「反統一団体」に転落したと言わざるを得ない。
在日同胞をはじめ多くの海外同胞が願う南北の統一は、平和・民主・自主を基本原則として推進され、「南北社会の等質化」(経済発展と平和・民主・人権の価値観共有)をめざすものである。「民主的先進国家への発展的統一」であり、「金日成王朝化統一」(全社会の金日成・金正日主義化)ではない。このような南北統一の実現には、南北の対話・交流・協力の推進・拡大と非核化を通じた南北間平和体制の構築に加えて、北朝鮮自身の改革・開放を通じた経済の再建と民主化推進が不可欠だ。 |
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