住宅の全部または一部を活用し、旅行者などに宿泊サービスを提供する「民泊」。世界情勢にも敏感に左右されるビジネス形態のため、運営には優れた情報分析、ゲストへの気配りなどが求められる。在日韓国商工会議所は22日、民泊ビジネスに関連する講師3人を招き、都内でセミナーを開催した。
リスクやノウハウなども
都内の韓国中央会館で22日、一般社団法人「在日韓国商工会議所」(柳和明会長、以下「在日韓商」)は、金融不動産部会(朴秀幸部会長)主催の「民泊セミナー」を開催、50人の関係者が参加した。
登壇したのは磯野達・そだてる投資代表取締役、崔永鎬・在日韓商理事、黄未来・彩り代表取締役の3人。都内を中心とした民泊ビジネスに携わるトッププレイヤーが講師を務めた。
はじめに朴部会長が主催者あいさつを述べた。
■民泊運営の形を考える
まず「かつぴん」の名で業界に知られている磯野代表が「アパートメントホテル型民泊運営のポイント」と題して講演。参加者の中で実際に民泊運営に携わっている人がいるかを確認した上で、これから始めたいと考えている人向けの具体的なアドバイスを行った。
住宅共有支援プラットフォーム「Airbnb」は民泊の基本ツールであり、同プラットフォームを通じてゲストから高い評価を受けている点を紹介した。自社物件だけでなく、台東区・墨田区内のアパートメントホテル運営代行を行っているのは地元が浅草であるためと述べた。
アパートメントホテル運営の強みは、「同じ建物内に複数部屋があることから生じるメリットが大きいため」とし、運営のしやすさを強調。また、レビューが実績に直結するためゲストに不満を感じさせないための細かな配慮・工夫が必要であるとした。具体的には(1)クオリティーの高い清掃(2)メッセージには即レス(3)頼まれごとにゼロ回答しないなど。
■人気の地域は限定的
続いて登壇した崔理事が「民泊物件購入で利回り14%以上実現」と題して講演。「民泊とは何か」「旅館業とは何か」という定義づけの説明から、東京23区で区ごとに異なる「民泊新法(住宅宿泊事業法)」「旅館業法」の規制まで、分かりやすく講義した。
民泊運営について、崔理事は(1)自分で運営(2)他者に委託(3)賃貸で貸す三つのパターンがあるとし、法規制によって銀行からの借入金の限度額が変動するため、入念に地域をリサーチする必要があると強調。
「民泊に対し近隣住民は嫌がる人がほとんど」とし、近年の環境リスクにより追い込まれる民泊業者も多く、訪日外国人観光客数より民泊の方が増えてきている現状など問題点も指摘。
■世界の民泊規制と日本
最後にオンライン参加の黄代表が「日本の民泊における変遷とリスクについて」と題して講演。これまでの10年間に生じた国際的な傾向やコロナ禍での低迷など広範な講義を行った。
コロナ後も、米国がニューヨーク市などで「事実上の禁止」に近い規制強化を行ったこと(23年9月)や、スペインのバルセロナ市が28年11月までに民泊を廃止する方針を打ち出す(24年7月)など、世界の主要都市・観光地で地元政府から厳しい規制を与えられるケースが目立つという。
一方で、そのような世界の日本政府の規制はそれほど強くなく、「世界一民泊に寛容な国」という点を黄代表は強調した。
質疑応答の場面で、李英俊・在日韓商広島会長が、「都内ではない日本の地方での民泊運営」について質問。また、卞達浩・在日韓商愛知会長が、「諸外国で民泊が規制を受けている理由」を尋ねた。
講師3人の回答は、崔理事が日本の地方の中でも特に外国人旅行客から好まれる地域もあるため「Airbnb」によるリサーチの重要性などを挙げた。また、黄代表は(1)近隣クレーム(2)政府のねらい(3)オーバーツーリズム抑制による対応から、各国での民泊への認識が変わってきていると説明した。
質疑応答の後に、閉会の辞を尹明遠・在日韓商金融不動産部会副部会長/東京韓国商工会議所副会長が述べてセミナーを締めくくった。
日本市場では、民泊ビジネスで大きな収益が見込める可能性がある一方で、成功のためには「Airbnb」などを駆使し、情報戦で抜きんでる工夫が必要だ。トッププレイヤー3人の講演に共通する内容が多かったのは偶然ではなく、SNSなどで互いの情報も共有しながら、同じ土俵で切磋琢磨しているからだろう。新たに参入する在日企業人にも一層の努力と覚悟が求められる。
 | | 22日、会場に駆けつけた李英俊・在日韓商広島会長㊨は質疑応答の場で「東京ではない日本の地方にも民泊ビジネス展開の利点があるか」尋ねた |