2023年末に北韓当局が表明した対南政策転換に基づき、昨年は朝総連にも日本在住の韓国人との関係遮断、断交などを迫る具体的な指示が下された。今年の元日、例年は金正恩総書記から許宗萬・朝総連中央常任委員会議長に送られる新年祝電が届かない事態が発生、その背景を探った。 対南政策の転換が原因か 1日、在日本朝鮮人総連合会中央常任委員会は許宗萬議長名義による「在日同胞たちに送る新年あいさつ」を表明。その全文は、1月1・8日(合併号)付『朝鮮新報』紙で報じられている。 例年では、金正恩総書記から許議長に宛てられた「新年祝電」がまず掲げられ、その下部または後部に「新年あいさつ」が載せられていた。 すでに一部のメディアが今年の変化について報じており、「新年祝電がなかったのは北韓当局の対南政策転換が原因ではないか」とする、朝総連関係者の指摘などが紹介されている。
■指示伝達にタイムラグ
過去5年ほどの『朝鮮新報』紙を詳しくみると、金総書記の「新年祝電」と許議長の「新年あいさつ」が微妙なすれ違いを繰り返していた点に気づく。昨年の1月1・10日(合併号)付『朝鮮新報』紙では、公表時点の問題もあるが、「新年あいさつ」の文面中に「統一」に言及した部分があった。今年「統一」の単語は消えたが、20~24年までは持続的に使用されていた。 引用があるので、許議長は「新年祝電」を読んだ後で「新年あいさつ」を書いていると思われる。ただ、北韓当局の「統一放棄」対南政策転換について詳細が分からず「新年あいさつ」を表明した可能性もある。昨年4月、朝総連傘下の組織「在日朝鮮人平和統一協会」(平統協)が解散を決めたケースのように、在日同胞社会への影響・反応に時間を置く必要があったなどの諸事情は勘案されるべきだろう。 一方で、金総書記の「新年祝電」には20年・21年・22年に「統一」の語が登場していた。23年正月の時点で、すでに「統一」を望まない意向を持っていたとも考えられる。 いずれにせよ、対南政策転換によって「新年祝電」を送らなくなったと経緯を述べるよりは、22年5月の韓国の政権交代(尹錫悦大統領就任)などを契機に、朝総連と北韓当局の関係性に変化が生じるようになったとすべきだろう。新年メッセージの性格や、指示の伝達までに生じるタイムラグの問題に注目する必要がある。
■北韓「新年辞」の意義
金総書記は今年で6年連続して「新年辞」を省略、党中委全員会議で採択した綱領的な結果報告をもってそれに代えた。「新年辞」は前述の「新年祝電」と異なり、北韓が国内向けに発表するもの。権力承継の初年の12年から19年まで、朝鮮中央テレビを通じて「新年辞」を発表してきた金総書記だが、20年からは発表せず、党会議の決定書を通して、新年の国家運営方針と各部門別の課題を提示している。 北韓はかつて、最高指導者の「新年辞」を重要な統治手段として使ってきた。毎年元日の朝、全住民は義務的に「新年辞」を聴く必要があった。新年の推進課業を部門別に提示、対南メッセージや対外政策などに言及した。各市・道・団体・工場・企業所ごとに「新年辞」貫徹のための決議集会を行い、参加者は全文を暗唱、各組織別に学術競演大会の開催、実行方向性を討論・決議するなど、1月を通じて「新年辞」関連の行事を続ける必要があった。 朝総連も、傘下団体を含む各級組織別に北韓側の指令に従い「新年辞」の学習を行い、これを貫徹する集会を開くことになっている。そのような事情は会議報告に代えられてからも朝総連で持続している。具体的な事例として『朝鮮新報』紙などが報じる最近の事例を見れば明らかだ。朝総連が朝鮮学校の生徒たちを派遣し新年の祝賀公演などに出席させているのも、そのような学習の一環である。
■朝総連と本国に距離感
許議長の「新年あいさつ」と『朝鮮新報』紙の今月の報道は、朝鮮学校出身の在日同胞学生が本国を訪問、昨年から復活した変化などについて、足並みをそろえて強調している。 一方で、微妙なすれ違いを感じさせる部分もある。 朝総連は4年ごとに大会を開催しており、22年5月28日に「第25回全体大会」が開かれた。そこで参加者に向けて発表された金総書記の「各階層の同胞大衆の無限の力によって総連隆盛の新時代をきり拓いていこう」と題した書簡があるが、今年の許議長の「新年あいさつ」では末尾でこの書簡の意義を強調している。 「新年祝電」が来ない異例の事態から、早々に来年への期待を述べているともいえるかもしれない。 最後にもう一点、5年前の許議長の「新年あいさつ」は「祖国が解放されて75年、総連が結成されて65年になる意義深い主体109(2020)年のはじまりの朝が明るくなりました」から始められた。それなら今年は”祖国解放80年・総連結成70年”といった文言から始まってもよさそうだが、「新年あいさつ」全文を通じても、”祖国解放80年”に言及が見当たらない点はひっかかる。『朝鮮新報』紙で金日成主席の生誕年を初年に数える「主体」暦の使用を今年1月から使用しなくなった点も注目される。 総じて、今年の始まりからすでに散見される北韓当局の変化・異変は、朝総連との距離感まで意図的に広めたもののように思われてならない。在日同胞社会が彼らといかに向き合うべきかを考えることは重要に違いないだろう。 |