韓日修交60年企画「韓日の架け橋『在日』、皆さんのおかげです!」第2回は、金照雄・時事日本語社顧問に話をうかがった。金顧問は日本語と韓国文学の双方を研究した経歴を持ち、50年間にわたり、韓国で日本語と日本文化を伝えてきた。(ソウル=李民晧/取材協力=在外同胞庁)
日本語教師になったきっかけは。
「大阪外国語大学を卒業後、延世大学に留学し、韓国文学を専攻した。大学院2年生(1975年)の頃、校内の日本語教師の枠が空いたので講師となり、以来それが本業となった」
70年代の日本語教材はどうだったか。
「まともな教材がなかったので、日本語教育の世界はまさに荒れ地のような状態だった。そのため、学習プログラムの作成や、教材の開発、講師向けのレクチャーなども行った」
韓日関係によって学習者数に影響はなかったか。
「日本語学習ブームは、韓日関係に左右されることなく続いていた。学習者の動機は主に仕事に直結したものだった。最近ブームが下火になったのは、日本経済に対する魅力が下がったのではないかと思う」
日本語学習熱のピークは。
「韓日サッカー・ワールドカップが行われた2002年ではないか。当時は、子供たちも日本人に会うと『お元気ですか(当時の韓国で流行)』とあいさつし、誰にでも日本語で話しかけていた。ブームは短期間で去ったが、日本文化に興味を持ち、日本語を学ぶ人が多かった」
韓国人の日本文化に対する興味は薄いということか。
「日本文化への興味がきっかけで日本語を学ぶ人は少ない。会話が得意だからといって、その国の文化を深く知っているとはかぎらない。日本語を学ぶ韓国人は、会話力は高い半面、新聞や小説を読み解く力が不足している傾向にある。頻繁に往来していても日本を理解しているとは言い難い」
国民感情と歴史認識の違いについて。
「韓国で歴史認識の問題が取り沙汰される際に使用される表現が『国民感情』というものだ。一方で、日本人の国民感情に対する韓国の理解はゼロに等しいといえる。国民感情を理解するというのは、『その国の国民は何が好きで、何が嫌いなのか。何に対し、どのような時に頭を下げるのか』というのを知るということ。韓国はその点が理解不足だと思う」
韓国人は日本のどのような部分を誤解しているか。
「例えば韓国では、日本は『宗教をもたない国』だと認識している。実際、結婚するときは教会に行き、子供が生まれたら神社に行き、亡くなったら仏教寺院に行く。それをもって『信仰がない』と言っているが、これはまったくの誤解だ。何百年と続く村の祭りがあり、それを守るための儀式や手順があるのだ。何かを受け継いで守ろうとするのはまさに信仰そのものではないだろうか」
では、日本人が誤解している韓国といえば、何があるか。
「かつて日本では、韓国を『恨の民族』『悲しみに浸っている国』とみる向きが強かったと思う。だが最近の韓国人からは暗い歴史を彷彿とさせる空気はどこにもない。陽気で活発だ。それが韓流ブームを起こした原動力となったのではないか」
在日同胞の暮らしに照らし合わせるなら。
「韓国人が集まれば騒々しいし、会食後の席は雑然としている。そうした韓国人の振る舞いに対し、以前の日本人は『汚い』と断じるだけだった。しかし最近は『エネルギッシュだ』とポジティブに捉えようとする空気感がある」
両国の歴史認識の違いを「善悪に対する概念の違い」と捉える人もいる。
「韓国が重視しているのは『善悪』だ。日本は『善は永久不滅ではなく時代と状況、人によって変わる』という認識がある。日本人がもつ『美徳』の感覚を多くの韓国人は理解していない。日本人は同じことを何度も言ったり謝ったりすることを『ぶざま』であると捉え、それを避けようとする。互いの嫌悪する部分を知るということは、相手の文化を理解するということにつながる」
金照雄(キム・ジョウン)
1949年12月京都市生まれ。大阪外国語大学朝鮮語学科卒業、延世大学国文学科大学院修了。時事日本語学院顧問。韓国日本語教育学会理事。 |