白頭学院建国高校(大阪市住吉区)伝統芸術部は8月24日、東京都渋谷区の新国立劇場で開かれた第35回全国高校総合文化祭優秀校東京公演で、郷土芸能「東來鶴舞~東來野遊より~」を披露した。「文化部のインターハイ」とされる全国高校総合文化祭で初の最優秀賞に輝いた”日本一の舞”は、会場内を韓国情緒に包み込んだ。
韓国南部の東來地方では陰暦正月15日前後に東來野遊という正月行事を終える祝祭が行われれる。鶴が翼を大きく開いて舞う独特な仕草は、自然美と芸術美の調和により高く評価され、無形文化財に指定されている。
11人の部員が鉦や太鼓を演奏し、鶴の動きを模した優雅でありながら力強い舞を披露すると、客席から手拍子が起こり場内が一体となって盛り上がった。
同部は7月31日から8月5日まで、岐阜県内で開かれた「第48回全国高校総合文化祭」の郷土芸能部門で、最優秀賞である文部科学大臣賞を初受賞した。郷土芸能部門には各都道府県大会から選ばれた59校が出場した。東京公演は、演劇、日本音楽、郷土芸能の各部門で優秀校に選ばれた各校が一堂に会し、改めて成果を披露するもの。
在日同胞3世で部長の許文さん(3年)は「貴重な経験を生かし、精進していく。これからも韓国伝統芸能を通じて、多くの人々に感動を届けたい」と語った。幼稚園児のころに来日した孫明辰さん(2年)は「緊張したが、終わって温かい拍手をもらったとき、ほっとした」と安堵の表情をみせた。日本人の小栗愛羅さん(同)は「音楽などの韓国文化が好きで、もっと韓国のことを学びたいと思い進学した。新入生歓迎会で披露された伝統芸術部の舞をみて感激し、入部した。全力でやりきった」と満足そうに微笑んだ。
同部の車千代美コーチは「生徒には祖国の伝統文化に親しんで韓国人として誇りを持つとともに、韓国の良さを日本の人に広めていきたい」と抱負を述べた。
全国高校総合文化祭には、大阪府代表として20年連続出場し、2009年と22年に文化庁長官賞を受賞している。韓国で行われた世界サムルノリ大会では、在日では初となる大統領賞を受賞した。これまでに韓国大使館主催の韓日親善行事への参加や、国際交流行事のゲストとして招待を受けている。
韓日両国で高く評価されている伝統芸術部だが、強さの秘密はどこにあるのか。同部の活動を記録したドキュメンタリー映画『でんげい~わたしたちの青春~』(15年・韓国)にそのヒントがある。
真剣な表情で練習する部員を見つめる車コーチ。発するアドバイスの言葉は「怒声」ともいえるほど強く激しい。その迫力に泣き出す部員もいる。また韓国芸術総合大学教授などを歴任した朴正徹氏が毎年来日し、直接指導。「本国の子どもたちより熱心なので、教えがいがある」と部員の頑張りを称える。練習レベルの高さと厳しさは、甲子園に出場する野球部と遜色ないほど。
練習日は火~金曜日の午後4~6時。土日祝日は公演や大会に出場し、大会直前は練習に充てる。顧問の上野仁嗣教諭は「大会前だったので映画では厳しさが前面に出ていたが、普段は和気あいあいとした雰囲気で練習している」と語る。
古式ゆかしい優美な伝統芸能と、根性と体力で極限まで追い込む体育会的厳しさ。一見すると相容れない体質に感じられるが、高校生の瑞々しい若さと情熱は、観る者にさわやかな感動を与える。
17年に卒業した元部員は「恩師」として車コーチの名前を挙げ、「とても厳しい」と言いながらも「褒めるときはとことん褒める」と評価し、「しんどいときには、そっと話を聞いてアドバイスしてくれ、第二のお母さん的存在」とまで信頼を寄せている。元部員は卒業後、車コーチの後押しで、韓国芸術総合大学への進学を決めた。
東京公演での本紙の取材に際し、コメントした3人の部員は、在日韓国人、新定住者(ニューカマー)、日本人と出自はそれぞれ異なる。
車コーチは「多様な背景を持つ部員による韓国の伝統芸能が、日本で認められて喜ばしい。これからも質の高い舞を披露していく」と誓いを新たにしている。
白頭学院建国高校伝統芸術部の快挙に関係者も喜びの声を寄せた。
金聖大・白頭学院元理事長「受賞おめでとうございます。伝統芸術部は韓国でも賞を受賞するなど、以前から頑張っていました。10年以上前にも文化庁長官賞を受賞したが、このとき部員は30人でした。しかし今は11人に減少して活動は苦しいようです。在校生徒数が増えて、学校全体が活性化してほしいと思います」
金秀子・建国高校校長「日々の地道な練習を積み重ね、一人一人が主人公となり、作り出した舞台。日本の高校総合文化祭で韓国伝統文化が認められたことは、在日にとって、また韓日友好を願うすべての人々にとって大きな意味があります」
趙瀅文・白頭学院校友会会長「最優秀賞受賞おめでとうございます。日々の練習の成果が実を結んだことに敬意を表します。今後も精進して、韓国の伝統芸能の良さを広めてください」
金貴史・民団大阪事務局長「初の最優秀賞を受賞され、誠におめでとうございます。文化部の甲子園とも称されるこの大会での栄冠は、絶え間ない努力と熱意の賜物です。韓国伝統芸術の魅力を多くの方々に伝え、学校の誇りを高められたことに、心から敬意を表します」
■全国高等学校総合文化祭 全国から各都道府県を代表する高校生が集結し、美術作品の展示や演劇・音楽の舞台発表などの芸術・文化を披露する日本の高校の文化の祭典。文化庁、全国高校文化連盟、開催地となる都道府県と市町村及びその教育委員会が主催する。全国高校総合体育大会(通称・インターハイ)に対比して、「文化部のインターハイ」とも呼ばれる。
■白頭学院 建国幼稚園・小学校・中学校・高等学校を運営する学校法人。大阪市住吉区所在。1946年創立。建国高校の在籍生徒数は132人。在日韓国人の子弟向けの民族教育を前提に設立された。学校教育法第1条による認可を受けた1条校。新定住者(ニューカマー)、日本国籍者も在籍している。韓日友好を基軸に、韓国語をベースに日本語、英語も飛び交う韓国系インターナショナルスクール。
韓国で古来、神聖とされた鶴が両翼を大きく開いて遊び歩く姿を表した自然美と芸術美を調和させた東來鶴舞(東京公演主催者提供、1面にも掲載)
伝統楽器を演奏しながら舞い踊る。客席から手拍子が沸き起こり、場内一体となって盛り上がった(東京公演主催者提供)
建国高校での練習風景。激しい動きを伴うので、運動部のような体力も欠かせない |