北韓国営の朝鮮中央通信は3日、金正恩総書記が平壌市中区に建設された住宅区を視察したと報じた。
金正恩氏は先月にも、松新(ソンシン)・松花(ソンファ)地区の住宅建設場を現地指導した。四月一五日の太陽節(故金日成主席の生誕記念日)に向けた業績作りの一環だ。建設事業は核・ミサイル開発と並んで金正恩氏がとりわけ力を入れているプロジェクトだ。
二〇一五年には市内を流れる大同江(テドンガン)のほとりに「未来科学者通り」、一七年三月には平壌大城(テソン)区域に「黎明(リョミョン)通り」と名付けたタワーマンション群を建設した。タワーマンションをはじめとする金正恩の建設事業、いわば「ハコモノ行政」に対する力の入れようは尋常ではない。こうした建物が完成すると、見栄えのいいハコモノを前にして満足そうに高笑いをする金正恩氏の姿が報じられるのがお約束となっている。
しかし金正恩氏のバックにそびえ立つ建物は、無味乾燥で無機質なものにしか見えない。着工から竣工までの間、金正恩氏が訪れたりして、派手に報じられるが、完成後にそこで人々が賑やかに生活をしているような様子が伝えられることはほとんどない。実際、これらの住宅は欠陥だらけだといわれている。
重要な記念日や大きな政治的行事の場で成果として発表するために、ハコモノ作りの工期を無理やり短縮する突貫工事「速度戦」で建設が進められるからだ。金正恩式大規模ハコモノプロジェクトも大抵一年そこらの「速度戦」で完成されている。建設現場には「突撃隊」といわれる
青年たちや朝鮮人民軍(北韓軍)の兵士が建設作業員として動員される。安全装備も不十分で夜でも明かりのない状態で作業を進めることから事故も多発している。完成したとしても、高層階には入居している人がほとんどいないという不思議な現象が起きる。日本のタワーマンションは、高層階が人気で値段が高くなるが、北韓のタワーマンションは低層階の方が需要が高く、高層階になればなるほど価値が低くなる。電力事情が劣悪だからだ。マンションのエレベーターはまともに稼働しない。高層階では水道すら使えないことも珍しくない。水を使うには、地上にある水道まで水を汲みに行かなければならない。地方のマンションでは、水が出なくてトイレが使えないため、住民は廊下や階段で用を足し、中には窓から「散布」する人もいるぐらいだ。たまに、北韓のテレビで小綺麗なマンションで生活する家族が紹介されたりするが、例外なく映像からは「生活感」がまったく伝わってこない。
完成して数年経ったタワーマンション前の写真を見たことがある。ゼロではないがほとんど人気はなく、まるでゴーストタウンのようだった。金正恩式ハコモノ行政は、北韓の人々の生活に配慮したものではなく、成果と見栄えだけを気にした虚しいプロパガンダに過ぎないのだ。
高英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『北朝鮮ポップスの世界』『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。YouTube高英起チャンネルでも情報発信中!
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