北韓のミサイル発射実験が止まらない。前回の本稿執筆時点で三回だったが、その後四回と一月だけで七回もミサイルを発射した。過去の例と照らし合わせても、これだけ集中してミサイルを発射するのは異例中の異例だ。
金正恩総書記は二〇二二年をミサイル開発を加速させる年と位置づけているようだが、今年は金正恩氏、そして北韓にとって、色々な意味で節目の年だ。金正恩氏は昨年(二一年)、最高指導者として一〇周年を迎えた。二二年は金正恩時代の十一年目となるわけだが、朝鮮労働党のトップ(一二年に第一書記)、つまり名実ともに北韓の最高指導者の座について一〇年目という節目の年だ。さらに金日成主席生誕一一〇周年、金正日総書記生誕八〇周年でもある。一月の異例の「ミサイル乱れ撃ち」からは、二二年の四月を華々しく迎えたいという金正恩氏の強い意思が伝わってくる。
一方、国際関係を見ても、今が「撃ち頃」ともいえる。二月に入れば北京冬季五輪が始まる。中国はこの間の北韓のミサイル発射に対して静観を決めこんでいるが、さすがに五輪期間中にミサイルを発射すれば黙ってはいられないだろう。
北韓のミサイル発射に最も反発する米国は厳しい姿勢を示しているが、強い圧力をかけるには到っていない。なによりも、米バイデン政権はウクライナ紛争をめぐる新たな米露対立という火種を抱えている。いうまでもなく米国にとって対ロシア政策、または対中国政策は対北政策よりも優先されるべき事案だ。米国にとって相対的に北韓問題の優先順位が低下するのは、やむをえないだろう。
もちろん、金正恩氏はこういった国際情勢を見越して、ミサイル発射実験を繰り返している。米国や国連が多少の制裁を発動しても、それ以上の積極的関与は無理だろうと見越しているわけだ。鬼の居ぬ間にミサイル発射というべきか。残念ながら、北韓のミサイル発射という脅威に対して、日米韓をはじめとする国際社会は有効な手立てを打てていない。制裁が発動されたとしても、北韓の核ミサイル開発を根本的に断念させるにはいたっていない。「制裁を加えれば北韓を経済的に追い込める。そうすれば白旗をあげてミサイル開発をやめるだろう」という見方もあるが、制裁が発動されて既に一六年が経った。むしろ金正恩政権は核開発とミサイル開発を加速させた。制裁に効果がないと言うつもりはないが、制裁は対処療法であって万能薬ではない。
結局のところ、金正恩政権が続くかぎり、多少軽減しようと北韓の軍事的脅威がなくなることはありえない。前回の本稿でも指摘したが、北韓にとって軍事力強化、彼らがいうところの「国防発展」は国家アイデンティティーだからだ。忘れてはならないのは、北韓の脅威に脅かされているのは、日本と韓国だ。また、金正恩氏の軍事優先政策は結果的に民事を犠牲にしており、北韓の一般民衆がそのツケを払わされている。日本と韓半島の民衆に脅威を与える金正恩政権の軍事的脅威を除去するために、より大胆な対北韓政策を考えるべき時が来ているのではないだろうか。
高英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『北朝鮮ポップスの世界』『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。YouTube高英起チャンネルでも情報発信中! |