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2021年09月08日 00:00
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ソウルを東京に擬える 第4回 ターミナル駅と消えゆく飾り窓

吉村 剛史(文・写真)

 清凉里、龍山、永登浦、千戸洞、彌阿里……。これらはソウルの五大集娼街として知られ、うち2カ所はターミナル駅がある街だ。都心の駅のそばで、夜に煌々と輝いていたピンク色の飾り窓は今や人々の記憶の中だけのものになりつつある。
このなかで最も代表的な場所が清凉里588であった。ソウルの北東に位置し、江原道方面への玄関口でもある清凉里駅前の大規模な飾り窓は、平昌五輪を前にした2017年についに跡形もなく取り壊された。この場所が集娼街として形成されたのは、朝鮮戦争の最中に前線へと向かう兵士たちを相手にするために娼婦たちが集まってきたためだといわれ、1980年代に最盛期を迎えた。その跡地では高層ビル群の完成も控えている。

(左)2010年の清涼里588 (右)新宿・歌舞伎町

かつての東京には色街は点在していたが、現代まで残る代表的な場所といえば江戸時代から続く遊郭の地、吉原だといえよう。ここには今もなおソープランドが軒を連ねる。ここに近いターミナル駅で、23区北東に位置する上野駅を清凉里駅に重ねて見ることもできる。
韓国では盧武鉉政権時代の2004年に性売買特別法が施行され、取締りが強化された。とはいえ必要悪でもあり、売春に従事する女性たちには生計の手段でもあり、すべてを取り締まるわけにはいかなかったようだ。摘発が進むと彼女らは生存権を求めて下着姿でデモを起こしたこともあった。しかしながら韓国が先進国としての地位を着実に築いていくなかで、飾り窓を堂々と営業させておけなかったようだ。
そして駅前に位置していたもうひとつの場所は龍山である。日本統治時代には隣の南営洞に日本軍の基地があり、その周辺に遊郭が設けられたが、解放後には龍山駅前に移るようになり、現代に至るまでそこにピンク色の飾り窓が煌めいていた。龍山駅はソウル駅に次ぐターミナル駅で、全羅道方面へのKTXの始発駅であり、韓国の動脈ともいえる京釜線が停車するという意味では品川駅にも例えられる。駅から少し離れた品川宿にはかつて遊郭があったというが、もし新幹線が停まる駅前に同じような姿が広がっていたなら、かなり異質な光景だったはずだ。龍山の集娼街は11年中に全廃。その後は暫定的に屋台村が形成され、今は駅前に高層アパートが聳えている。道路を挟んだ向かいにはアモーレパシフィックの本社ビルや、BTSの事務所であるHYBEの新社屋の建物がある。
集娼街とは性質が少々異なるが、東京の屈指の歓楽街といえば、新宿区歌舞伎町を思い浮かべるだろう。ソウルでいうならば南大門そばの北倉洞や江南の論峴洞に近い存在だろうか。歌舞伎町は04年頃からの石原慎太郎都知事(当時)による浄化作戦によって、当時は違法店がある程度減少したようだ。しかし長いスパンで見れば決して浄化などできていない。訪日外国人が大きく増加した15年以降は、外国人へ注意を呼びかけるぼったくり防止アナウンスが多言語で流れており、街の猥雑さはかつてのままだ。ちなみに埼玉県西川口駅周辺も歌舞伎町に続いて摘発を行い、今ではそこに中華料理店が増え、チャイナタウン化したという経緯もある。とはいえ今も性風俗店自体はいくつか存在する。
20年には千戸洞の集娼街も隣接する古びた市場とともに一気に取り壊され、続いて工場街に隣接する永登浦タイムスクエア裏手の集娼街もついに消滅した。そして彌阿里も再開発が進行中だ。こうした浄化を考えたとき、東京のように様々な業態が混在するなかではソウルの真似はできないが、時代に合わなくなった街を一気に破壊し、街の雰囲気をガラリと変えてしまうダイナミックさは韓国の特徴であり、日本とは対照的なところだといえるだろう。

2021-09-08 6面
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