世の変遷の激しさを言い表す熟語に「滄海桑田」がある。「桑田滄海」も同じだ。桑畑が青々とした海原に、また海原が桑畑にということである▼先週の後半に東日本を襲った大雨は、各地で川を氾濫させた。濁流が家や木々を押し流し、多くの人が命を落とした。昨日まで見えていた風景が、一瞬にして変わっていくのを目の当たりにしたとき、人はどのような感情を抱くのか。恐怖心だけではないだろう。ただ、それは経験した者にしかわかるまい▼ここ十年ほどで、日本の気象は大きく変わったように思える。大雨を経験した直後だから、過去の水害を忘れて一人早合点しているのか。そうでもなかろう▼「ゲリラ豪雨」が流行語大賞に選ばれたのは08年。それまでの「夕立」、「通り雨」とは比較にならないレベルの局地的豪雨が増えたからだ▼今回発令された「特別警報」は「数十年に一度しかないような非常に危険な状況」にのみ使われる。この警報ができたのは、わずか2年前だが、発令はこれで5回目だった▼そろそろ水は引いているだろう。茶色の”海”が消えた後に姿を現すのは、青く茂った桑畑ではない。泥に覆われた自宅や、毎日乗っていた自動車だ。被害者の気持ちはいかばかりか。安全な場所にいた身としては、おもんぱかるしかできない。 |