日本人拉致被害者の救出を訴える「国民大集会」が26日、東京の日比谷公会堂で開催された。拉致被害者の家族と救出運動の関係者をはじめ、山谷えり子拉致問題担当大臣など国会議員と地方自治体の救出運動団体など1800人(主催者発表)が参加した。この日訪米する安倍首相も大会に出席し「大切なことは『拉致問題を解決しなければ、北朝鮮がその未来を描いていくことができない』ということを、北朝鮮にしっかりと理解させていくこと」と強調し、羽田空港に向かった。 大会では、異例なことに安倍政権への厳しい批判も出た。元拉致問題担当大臣の松原仁・民主党拉致問題対策本部長代行は、拉致問題に関する日朝接触のとき、北側が朝総連本部建物問題に特別な配慮を要請した事実を公開し、日本政府の厳格な対応を求めた。 拉致議連の中山恭子副会長(元拉致問題担当首相補佐官)は、安倍政権のここ1年間の拉致問題への対応を厳しく追及した。昨年5月のストックホルム合意で、拉致問題が付随的事案になったことや、対北制裁の一部解除(昨年7月)はあってはならないことだったと述べた。安倍首相が今年の施政演説で、拉致被害者の再調査結果通知のみを強調したことについては「政府の救出決意が見えない」と批判。日朝接触は拉致被害者救出に限って行い、国交正常化交渉は被害者救出後に行うべきだと強調して参加者たちの大きな呼応を得た。正しい指摘であり、正論といえよう。 ところで、安倍首相の話をはじめ、大会で主張された内容の中には看過できないものもあった。「拉致問題を解決しなければ、北朝鮮がその未来を描いていくことができない」と、被害者への再調査結果通知を強調した首相の言及は、言い換えれば、拉致被害者を帰しさえすれば、北には未来がある、つまり、金正恩体制が延命できるということだろうか。 北韓は1945年8月、スターリンの赤軍に占領された。韓半島では分断されてからの70年間、日本が太平洋戦争で出した310万人の犠牲の2倍をはるかに超える人命が失われた。北韓住民は、植民地支配の35年間よりも過酷な奴隷状態で、70年間すごしてきた。安倍首相は、北韓住民の惨状は続いてもかまわないというのか。 国連人権理事会は、北韓の人権状況は容認できない状態であるとして、その最高責任者を国際刑事裁判所に付託すべしという報告書を採択した。日本政府もその報告書を支持した。 安倍政権が、仮に何人かの拉致被害者を取り戻したら、金正恩体制の延命に協力、あるいは延命を約束するなら、大多数の韓国民はそういう日本とは価値観を共有できない。 日本は56年前、在日韓国人を「人道主義」の美名の下で北韓に送還することを決めた。いま崩壊しつつある金正恩体制を日本が延命させれば、日本は自由民主主義の価値を信奉する国家とはいえない。 最近、米国から北韓の核兵器実戦配備に対する警告が相次いでいるのとは対照的に、日本では北の核ミサイル実戦配備への懸念はほとんど聞こえない。 日本社会の対韓情緒を悪化させ、対北姿勢をここまで混乱させたのは、朝総連と韓統連、そしてこれらの組織と連帯してきた日本人だ。彼らは今も韓国の「民主化」や人権問題ばかりを提起し、北韓の人権惨状は無視している。 今も少なからぬ日本人やマスコミが、韓統連の主張に影響され呼応している。これこそ北の韓統連を通じた工作の成功例だ。 韓統連は発足(1973年)当初、議長に推戴された金大中を保護するという戦術的意図を持ち、朝総連とは距離を置いて活動する様子を演出してきた。だが、金日成の指令で、1990年に「汎民連」(祖国統一汎民族連合)が発足した後は、その正体を隠さず、北の統一戦線工作の中心的な存在として、朝総連と一体となった。 「汎民連」の海外本部を東京に設置し、共同事務局次長を朝総連政治局出身の朴勇と韓統連の康宗憲が務めた。金大中と金正日の「6・15共同宣言」の後は、韓統連の機関誌が朝総連に代わって平壌の方針を代弁する役割をなしている。 朝総連と韓統連、そして彼らと連帯してきた日本人団体や学者たちは、北韓の核兵器とミサイル開発を批判していない。彼らは日本政府の拉致問題関連の対北制裁を批判し、対北制裁ではなく、対話を通じての「外交的」解決の雰囲気作りに尽力してきた。そして彼らの活動は、それなりに効果をあげているのである。 (続く) |