大統領選挙政局の雲行きがおかしい。民主政治制度に完璧さは期待しないが、大統領選挙に初めて参加する在外同胞は、韓国の大統領選挙は元々こんなものだったのか、これが民主政治制度なのか、政党政治の姿がこんなものか、などと失望するだろう。本国の有権者も同じ懐疑と失望、怒りを感じているはずだ。
選挙では候補の価値観、政策、人柄などを見て投票すべきだ。もちろん、自分が好きな人物に投票するのだが、いずれにせよ、投票のレベルが民主政治の健康度を決める。
有権者が誤った選択をすれば、最悪の場合はナチスドイツのようになる。ヒットラーを登場させたワイマール憲法でのドイツからその教訓を得るべきだ。有権者の集団的な間違った選択は民主政治の自殺なのだ。有権者の愚かさこそ、民主政治発展の障害だ。
投票を2カ月半前に控えての状況は、まさに滅茶苦茶だ。政党の候補が、党員の意思よりモバイル投票という実体の確認しがたい方法で決まったり、第1野党の候補と有力無所属候補が一本化の駆引きをする。選挙戦というより有権者の判断を曇らせる工作に終始している。韓国の幼い民主政治制度と有権者を、得体の知れない勢力が愚弄しているといえる。
東アジアに領土紛争の危機が迫る中、北の世襲独裁体制が大統領選挙に露骨に介入してきても、有力候補は逆に平壌との関係改善をうたっている。憲法上大統領の第1責務は国を守ることなのに、国民を堕落させる安っぽい扇動や不毛な歴史論争ばかりやっている。国家観どころか根本的な考えすら疑わしい候補が、偽善や嘘で有権者を騙して有力候補に浮上し、甚だしくは「6・25戦争を北が起こしたとはいえない」という従北候補も出馬を宣言した。
候補や政党が民主政治制度の原則と常識を無視するなら、有権者の方が彼らを牽制に出るべきだ。有権者には候補と政党に価値観や政策を明確に提示するよう要求する権利と義務がある。
韓国の大統領は、核武装した北側と対峙中の国軍の最高司令官であり、しかも次期大統領は在任中に韓米連合司令部の解体をはじめ韓半島の歴史的変革に取り組まねばならない。それで今回の選挙ではこの使命こそが確認されねばならない。「人民革命党事件」や張俊河の転落死疑惑などを蒸し返す歴史論争は、無駄な国論分裂を招くだけだ。
いや、韓国現代史の見直し論争が始まった以上、ぜひ究明せねばならない重大な歴史の課題がある。現代史の最も重要な転機の一つである光州事態に北の特殊部隊が介入した具体的な証拠が提示されたからだ。
光州事態は、国軍が無辜の市民を虐殺した韓国現代史の恥部として記されている。ところが、北韓の特殊軍数百人が1980年当時、光州一円に浸透したという証拠があるのだ。以前から脱北者の証言はあったが、光州事態に触れることは韓国では禁忌だった。
だが今年の8月、ソウル高裁は「光州事態での良民虐殺は北の特殊部隊の仕業だ」と主張して名誉毀損で告発された男性に対し、無罪を宣告した。事実上、北韓軍の介入を認める判決が下されたのだ。韓国のメディアや政治勢力は、現代史を書き換えられるこの判決に、不思議にも沈黙している。事実上の是認・同調である。
北の特殊部隊が光州で武装反乱を扇動し、しかも、自ら行った残虐な虐殺を韓国軍(戒厳軍)に擦りつけたとすれば、それはポーランド軍将校を大量虐殺してドイツに責任を転嫁したスターリンの「カチンの森事件」と同じになる。国軍と大韓民国の国家名誉のためにも、必ず真相を究明せねばならない。
選挙は民主国家の政治発展の貴重な機会だ。12月19日は、候補者が審判を受ける日というより、有権者の投票行為が審判を受ける日になるはずだ。大統領選に出馬する候補に、光州事態の再調査と真相糾明を最優先課題の一つにするよう要求する。大韓民国の歴史が、大韓民国の敵の謀略によって自虐的に捏造されている状態を放置する訳にはいかないためだ。 |