ログイン 新規登録
最終更新日: 2017-10-18 00:00:00
Untitled Document
ホーム > アーカイブ > 小説
2009年11月16日 09:49
文字サイズ 記事をメールする 印刷 ニューススクラップ
 
 
序曲(47) 金鶴泳

 祥一がT大学に入り、洋子がN化粧品会社に就職して、二人は相前後して敦賀から上京したわけだが、二人の交際がはじまったのは、上京して半年ほど経ってからである。
 洋子が東京のN化粧品会社に就職が決まったことは、高校卒業直前、卒業式の日に彼女から鬼胡桃(おにぐるみ)を贈られる前に、誰からともなくきいて知っていたが、それ以上は何もわからなかった。N化粧品会社という名前も彼のはじめてきくもので、東京のどの辺にあるのかもわからなかった。知ろうともしなかった。やはり、彼はまだ洋子に何の関心も向けていなかったわけである。東京の会社に就職したというからには、あの女生徒も、卒業したら上京するわけか、とちらっと思っただけだった。
 卒業式の日に、その洋子から思いがけなく大学入学祝いとして鬼胡桃を贈られ、彼はびっくりしたのだったが、そのとき、彼は、すでに洋子がN化粧品に就職したと知っていたにもかかわらず、「ありがとう」とひと言札をいっただけで、洋子の就職を祝う言葉は彼の口から何も出なかった。祝いを述べる気持のいとまがなかった。


 彼女がすぐに立ち去ってしまったせいもあるが、それ以上に、彼女の突然の贈物の意味について、心の中で首をかしげるしか、そのときの彼には能がなかった。彼の許を立ち去り、他の女生徒のグループに加わって話し込んでいる洋子を、彼はただぼんやり眺めていただけだった。
 洋子とは、それっきりになっていた。彼は四月の上旬に上京して、湯島に下宿しはじめたが、同じように上京しているはずの洋子はどこに住んでいるのか、まるでわからなかった。
 洋子が忠告してくれたごとく、彼は、親指の皮をむしる癖を矯(た)めようと、鬼胡桃を三個、常に手にするようになった。彼の方でも、この奇妙な、というより醜い悪癖を、何とか直したいと思っていたのだ。そして、鬼胡桃を握り、擦(す)り合せていると、たしかにその悪癖は少しずつ是正されて行くようだった。
 左右どちらかの手に鬼胡桃を握っていると、親指の皮は多少むきづらくなるのである。それに、鬼胡桃を擦り合せ、音を鳴らしていると、不安定な心持が、多少は紛れるような気がするのである。
 何とかこの奇癖を廃(や)めたいという思いも手伝って、彼は常時鬼胡桃を握るようになった。下宿で机に向かっているときも、外を歩いているときも、大学での授業中でさえ、周囲の邪魔にならぬ程度の弱い音を掌の中で響かせつつ、講義を聴いていた。
 鬼胡桃を鳴らしているとき、しばしば彼は、卒業式のあの日、顔を赧(あか)らめながらそれを贈ってくれた洋子を思い出した。思い出しては、自分でもはっきりと名状できない、何か甘いものを感じた。けれども、それは恋ともいえない、極めて漠然とした感情だった。
 だいいち、彼は、洋子がどういう女性か、まったくといいほど知らない。鬼胡桃を贈ってくれたとき、ほんの一分たらず、正面から向き合っただけである。ただ、彼女が鬼胡桃の入った袋を差し出し、
「これでも握って、指の皮をむしる癖をやめて下さいな」
 恥じらいの色を浮かべてそういったときの、彼女の澄んだ目が変に印象に残っていた。
 澄んだ目が潤いを含んでいた。彼女を思い出すとき、よく彼は、その目の潤いが自分の心の中にまでひろがってくる気がした。
 月日とともに、彼は洋子のことが気になり出した。

1984年8月24日4面掲載

1984-08-24 4面
뉴스스크랩하기
小説セクション一覧へ
「大韓民国が恥ずかしい」
韓中通貨スワップ期限切れ
反国家団体に便宜を図る文政権
北の核・ミサイルに「やめろ」
亀裂深まる韓米同盟
ブログ記事
朴槿恵大統領を釈放せよ、孫石煕(JTBC)を拘束せよ!
朴槿恵被告の拘束を延長してはならない8つの理由
国民にハングル専用を強いるな!
朴槿恵大統領弾劾の引き金だった「タブレットPCの正体」がついに明らかになった
朴槿恵大統領釈放要求デモ
自由統一
北韓が開城工団を再稼働
9億ドル超の借款 北の返済ゼロ
核・ミサイル開発に30億ドル
安保理の制裁可決
北の狙いは米との不可侵協定


Copyright ⓒ OneKorea Daily News All rights reserved ONEKOREANEWS.net
会社概要 会社沿革 会員規約 お問合せ お知らせ

当社は特定宗教団体とは一切関係ありません