今回は韓国経済の現状をセグメント別に把握した上で、米韓関係について、注目の造船業の視点から考えてみたい。
[韓国経済の現状]
韓国政府・統計庁が発表した7月の「産業活動動向」によると、韓国の産業生産や消費、投資がいずれも増加している。7月から支給された「民生回復消費クーポン」や消費心理回復などが後押しし、消費は2年5カ月ぶりの上昇幅を記録、生産も2カ月連続で増加したと見られている。実体経済面から見た韓国経済には堅調さが見られる。
次に、金融経済面から見た、韓国経済を概観する。中央銀行である韓国銀行は8月28日に定例の金融通貨委員会を開催し、政策金利を年2・50%に据え置くことを決めた。
韓国銀行は成長率見通しを2023に2・3%と予測してから、今年2月には1・5%、同年5月は0・8%と下方修正を続けてきたが、今回はわずかながらも上方修正となっている。
こうした経済状況にあって、韓国では来年度の予算編成に向けて動きが出ている。6月に発足した李在明政権の初めての本予算案で、人工知能(AI)や研究開発(R&D)分野に予算を集中的に配分している。
韓国政府は8月29日の閣議で、26年度の予算案を決定しており、予算案は9月に国会に提出され、12月に確定する。総収入は22兆6000億ウォン増加した674兆2000億ウォン、総支出は54兆7000億ウォン増の728兆ウォンとなる。新たな韓国経済発展の基軸を構築するための積極予算案とも言えるが、財政バランス悪化が懸念される。
最後に、韓国経済の浮沈に大きな影響を与える為替相場、ウォン・米ドル為替相場について、触れておきたい。米国製造業・サービス業の景気指標が良かったことに加え、金利引き下げ期待感が弱まった結果、米ドル高・ウォン安傾向が続くとの見方もある。こうした中での韓国政府の政策遂行能力が問われている。
[米韓関係と造船業]
米国のトランプ大統領は原子力潜水艦の派遣命令を明らかにしたが、これはウクライナを侵略するロシアに核戦力を誇示し、圧力を背景に停戦に向けた譲歩を引き出す狙いもあると見られている。
トランプ大統領は第1次政権時にも、北朝鮮に対する圧力強化策として、戦略原潜を韓国に寄港させたことがあった。第2次政権発足後、核戦力を露骨に示したのは今回が初めてであるが、得意の「Dealの一環」なのかもしれない。
こうしてトランプ大統領は原潜を背景にして、国際的なパワーゲーム、大一番を展開しているが、一方で米国の造船業の世界シェアは極めて低い。
造船業の世界シェアは24年現在、中国本土が約55%、韓国が約27%、日本が約13%となっており、米国はわずか0・1%である。米国の造船を支えているのは基本的にはオーストラリアであり、今般、日本がそれを更に支えて建造も引き受ける可能性が高まっている。
三菱重工と今治造船・ジャパンマリンユナイテッドの合併会社、川崎重工などがセコンドしていくことになろう。そして、その日本勢と共に、米国の軍用船市場に食い込もうとしているのが韓国勢である。
軍用船を韓国勢に任せることが米国のリスクになる可能性もあることから、最初は軍用輸送船の補修などから始まるとの見方もあるが、間違いなく、造船のDealにおいては韓国を取り込む姿勢を見せよう。
それに対して韓国が、中国本土やロシアを意識して、どこまで米国にすり寄るのかを世界も注目し始めている。韓国は、中国本土やロシア、米国にとって更に大きな存在感を示してくることになるかもしれない。
以上、少しでもご参考になれば幸いである。
(嘉悦大学副学長、愛知淑徳大学名誉教授 真田幸光) |