高麗郡建郡1310年記念 新井英一コンサート

「清河への道」全48番に込められた魂の歌声と未来への願い
日付: 2026年10月29日 12時11分

10月28日(水)、さいたま市浦和区の埼玉会館小ホールで、高麗郡建郡1310年を記念する新井英一さんのコンサートが開催された。会場には約500人が集まり、在日コリアン2世のブルースシンガー、新井英一さん(76)の力強い歌声に聴き入った。
今回のコンサートの目玉は、なんといっても新井さんの代表作「清河への道」(1995年日本レコード大賞アルバム賞受賞)の全48番が披露されたことだった。
若き日、韓国語もままならないなか、自らのルーツを知りたいと父の故郷、韓国・慶尚北道の清河を訪ねた新井さん。その旅を起点に、青春時代の放浪や家族への思いを歌い上げた「清河への道」は、在日コリアンのみならず、多くの日本人の心をも揺さぶってきた。
76歳となった新井さんにとって、48番にも及ぶ大作を一気に歌い上げることは容易ではない。通常は8番までしか歌われることのなかったこの壮大な作品が、今回は満を持して全曲披露された。新井さんのパワフルな歌声と情熱が、会場を包み込んだ。


過去を忘れず、未来へ向かう歌


新井さんは自らを「コリアン・ジャパニーズ」と表現する。15歳で家を出て、アメリカでの放浪生活などを経て音楽の道へ進んだ。その人生と、自らのルーツを見つめる旅が「清河への道」に結実している。
作品に描かれるのは、過去の苦難だけではない。差別や分断の歴史を忘れず、それでも過去にとどまることなく、明日へ向かって生きていこうという願いだ。
そのメッセージは、在日コリアンの経験にとどまらず、人生の苦労や家族への思いを抱えて生きてきた多くの人々の心にも響く。日本と韓半島の相互理解、そして民族の違いを越えた共生を目指す今回のコンサートの趣旨とも深く重なっていた。


黒田福美さんも感動 「会場全体から思いがあふれる」


コンサートには、女優として活躍する一方、長年にわたり韓日友好のために尽力してきた黒田福美さんも来場した。黒田さんは、満席となった会場の熱気と、新井さんの圧倒的な歌声に深い感銘を受けたという。
「本当に素晴らしいコンサートでした。会場全体から新井さんへの思いがあふれているのが伝わってきました」
第一部で披露されたハンドフルートについても、「哀愁を帯びた音色が聴衆を魅了していました」と振り返る。
そして、何より心をつかまれたのが、新井さんの歌声とその存在感だった。
「76歳とは思えない素晴らしい歌声で、年齢を感じさせないどころか、むしろ凄みが増しているように感じました。一部も二部も感動の連続で、涙をぬぐう方も大勢いらっしゃいました」
長年、韓日の人々の交流に携わってきた黒田さんにとっても、音楽を通じて人々の心が動かされる今回のコンサートは、印象深いものとなった。


主催「高麗若光の会」とは


今回のコンサートを主催した「高麗若光の会」は、在日コリアンと日本人の有志によって2010年に設立された民間団体で、日本と韓半島の友好親善を目的に活動している。
約1300年前、高句麗から渡来した高麗王・若光(じゃっこう)をはじめとする人々は、現在の埼玉県日高市周辺に定着し、716年に高麗郡を建郡した。
この歴史を後世に伝えるため、2016年には若光を祭神とする高麗神社(高麗家第60代嫡子・高麗文康宮司)の境内に、建郡1300年を記念して「高麗王若光碑」が建立された。同年4月の建立記念式典には、高円宮妃久子殿下をはじめ、当時の韓国全権大使や文部科学大臣などが参列した。
そして2026年、高麗郡建郡1310年という節目に、音楽を通じて歴史を振り返り、共生と友好への願いを伝えようと今回のコンサートが企画された。
裵光幸理事長(78)は、会の活動が南北の同胞と日本人の会員によって支えられている点にも注目してほしいと語る。異なる背景を持つ人々が同じ目的のもとに集い、交流を続けること自体が、共生社会への大切な一歩となっている。


久子妃殿下の心をつかんだ「ハンドフルート」


今回のコンサートでは、第一部でハンドフルート(手笛)の演奏が披露された。
石碑建立以来、高円宮妃久子殿下と裵理事長は親交を続けてこられた。ある時、裵理事長は旅先で偶然耳にしたハンドフルートの音色に魅了され、妃殿下にも聴いていただきたいと奏者を招いて演奏を披露した。
妃殿下はその素朴な音色に心を打たれ、その後、ご自身が主催される催しにも奏者を招かれたという。
手と息から生まれる温かな音色が人の心を動かし、新たな縁をつないでいく。今回の演奏もまた、音楽が持つ人と人とを結びつける力を感じさせるものとなった。


音楽の感動を子供たちの未来へ 子供食堂チャリティー


今回のコンサートには、もう一つ大切な目的があった。子供食堂を支援するためのチャリティー活動だ。
「高麗若光の会」には、日本人会員のお二人が子供食堂を運営している。子供食堂は、無料または低額で温かい食事を提供する地域の取り組みであり、子供たちが安心して過ごせる居場所としても重要な役割を担っている。
物価高騰などの影響で、子供食堂を利用する子供たちが増えているという。こうした状況を受け、今回のコンサートは寄付金を募るチャリティーコンサートとして開催された。
音楽を楽しむだけでなく、その感動を子供たちへの支援につなげる。今回の取り組みには、文化交流にとどまらず、地域社会の課題にも目を向け、支え合う社会を築こうという願いが込められている。


歴史を受け継ぎ、共に生きる未来へ


高麗郡建郡1310年という歴史的な節目に開催された今回のコンサート。新井英一さんの「清河への道」は、自らのルーツをたどる旅を通して、過去の苦難と向き合いながら未来へ歩むことの大切さを伝えた。
ハンドフルートの演奏、そして子供食堂へのチャリティー活動も、人と人とのつながりや支え合いの大切さを感じさせるものだった。
歴史を学び、互いの違いを認め、困っている人に手を差し伸べる。民族や国籍を越えて共に生きる社会は、そうした一つひとつの積み重ねによって築かれていく。
今回のコンサートは、音楽を通じて日本と韓半島の友好を願うとともに、歴史を未来へつなぎ、次の世代を支えていくことの意味を問いかける機会となった。

 


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