朴忠弘氏の著書『在日を生きる――信念と行動の軌跡』は、一人の在日韓国人の歩みをたどる自伝であると同時に、戦後在日同胞社会の発展を内側から記録した証言の書である。
本書を貫くテーマは、「在日を生きる」ということの意味である。著者は在日であることを単なる出自や国籍の問題としてではなく、先人たちが築き上げた歴史を受け継ぎ、社会の中で責任を果たしていく生き方そのものとして捉えている。
その原点として語られるのが、全羅南道康津から海を渡ってきた父母の存在である。厳しい時代を生き抜いた先代の姿と教えは、著者の人生観の礎となり、「誠を尽くし、人として恥じない生き方」という価値観へと結実する。
祖国の韓国と日本という二つの文化を「欠落」ではなく、人生を豊かにする「二重の根」として受け止めた著者のアイデンティティは、陽明学の核心である「知行合一(正しいと知ることを行動で示す)」という信念へと昇華していく。
本書の読みどころの一つは、大阪興銀から関西興銀、新韓銀行設立に至る民族金融の歴史が、当事者の視点から詳細に描かれている点である。在日同胞の生活と事業を支えた金融機関が果たした役割と、その栄光と挫折の歴史は同胞社会の歩みでもある。
こうした金融の現場における実践を踏まえ、在日韓国商工会議所の法人化や組織改革に取り組んだ経験についても語られている。組織運営をめぐる葛藤や困難を隠すことなく記録した姿勢からは、「歴史に対する責任」を重んじる著者の信念が伝わってくる。
さらに四天王寺ワッソや全羅南道道民会の活動を通じて、文化継承と韓日交流の重要性も説かれる。著者は在日社会の未来を、閉鎖的な共同体ではなく、世界へ開かれた存在として展望している。
「在日であることは単なる生まれや国籍の問題ではなく、日々の実践を通じて自らの人生と社会をつなぐ生き方そのものなのだ」と著者は説く。
在日同胞社会が世代交代の時代を迎える今、本書は先人たちの歩みを振り返るだけでなく、未来への責任を考えるための一冊でもある。若い世代にとっては、自らのルーツと向き合い、「在日を生きる」とは何かを問い直す契機となるだろう。(評・李民晧)