高永喆 韓半島モニタリング 第65回

イラン戦争とトランプ大統領の戦略
日付: 2026年03月30日 04時03分

 2026年現在、世界は前例のないエネルギー災害の渦に巻き込まれている。カタールのLNG施設破壊により世界の供給量の20%が蒸発、韓国ウォンの価値は1600㌆台を脅かし、経済的な血脈が滞っている。修羅場の中で冷静に局面を読むことができる戦略家なら、一つの事実が発見できよう。すなわち、この戦争が米国にとって覇権を独占、支配力を深化させる「隠し玉」であるという事実だ。
トランプ大統領の足跡は、彼の著書『取引の技術』や愛読書『孫子兵法』と軸足を揃えている。「兵は詭道なり」という孫子の教えのように、彼は極端な圧迫と破格な交渉を行き来しながら、相手の計算をまず崩す。トランプ氏は「成功したビジネスマン」であり「戦略家」として、最大の圧力で相手の譲歩を引き出す心理戦に長けている。今回のイラン攻撃も、偶発的な衝突だったのではない。
相手が次の一手を読めないように思量する『マッドマン戦略(Madman Theory)』を通し中東の地政学的リスクを最大化、その混乱に乗じて米国の国益を独占しようとする徹底したビジネス的計算が裏面にあった。
同盟国にも「費用対効果」を求める姿勢は彼にとって、戦争が軍事的な勝敗を超えた『収益率の高い投資』であることを物語っている。イデオロギーより、徹底した実用主義的な現実政治を優先する彼の本当の姿を赤裸々に映すのだ。
現在の世界は、ペトロ・ドル時代に続いて、今やガス・ドル時代へと移行していると見ることができる。
ホルムズ海峡が封鎖、中東のエネルギー供給網が遮断されるなど、世界は唯一大量のガスを安全に供給できる米国に依存することになる。イラン戦争は米国にとって失うもののない勝負である。かつて米国の覇権は、民主主義と人権という「価値」と、石油決済手段である「ペトロ・ドル」の上に築かれていた。今は「資源とサプライチェーンの掌握」という実利にその軸が移った。米国はすでに年間1億トン以上のLNGを輸出しており、名実ともにエネルギー支配国である。ホワイトハウスは先立って2025年から「米国エネルギー解放」を宣言、規制を撤廃し掘削を増やした。
中東が不安定になると、米国産LNGの価値は急騰。世界は、エネルギーの生命線を握る米国に依存している。これこそがトランプ大統領が設計した「エネルギー・金融複合覇権」の本質である。
今回の戦争の最も致命的な標的はイランの背後にいる中国だ。中国はこれまで米国の制裁を回避、イランやベネズエラから低価格のエネルギーを調達しながら製造業の競争力を維持してきた。しかし、今回の戦争は中国が享受していた「経済的利益」を根本的に遮断、「エネルギーの裏口」を完全に封鎖した。
エネルギー研究所(IER)の分析のように、中国が享受していた「低価格エネルギー供給網」を排除することで、中国製造業のコスト競争力を崩すことが米国の核心的な狙いである。今や中国は泣く泣く高価な米国産LNGを購入しなければならない立場に置かれた。これは、米国がエネルギー価格を通じて中国の経済エンジンをいつでも停止することが可能という強力な武器であることを意味している。
米国が戦費に数千億ドル使ったとしても、中国が受ける経済打撃の方が大きい。米国はこれを「成長格差を広げる確実な投資」と見なしている。
韓国の李在明政権が苦慮の末、「ホルムズ海峡関連首脳共同声明」に遅ればせながら賛同したのは、ガスバルブを握る供給者に良い態度を見せなければ生き残れないという冷酷な政治の結果である。最終的なところで、米国側につくべきだと判断を下したのだ。
戦争の恐怖は、同盟国の防衛費増加を促す。それがボーイング、ロッキード、ジェネラル・ダイナミクスなどの米国防衛産業の収益を増加、技術覇権を強化する。米国は今や、安全保障のただ乗りをなくし、エネルギーと武器を独占的に供給。同盟を「顧客」に作り上げている。
イラン戦争は「誰が世界中のエネルギー価格を決定し、誰が決済手段を支配するか」という覇権掌握のための過程だった。米国はガスバルブを握り、世界を支配する最強のスーパーパワーとして再び君臨するだろう。レーガン大統領は、米ソ軍備競争において最強の軍事力を築き、旧ソ連を崩壊させた。
今やトランプ大統領は、世界最強の圧倒的な軍事力を利用してエネルギーを掌握、米中覇権戦争を勝利に導くことが確実に見える。(おわり)

高永喆(コ・ヨンチョル)
拓殖大学客員教授、韓国統一振興院専任教授、元国防省分析官。著書に『金正恩が脱北する日』(扶桑社)など。

 


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