在韓米軍の中核的な防空戦力であるTHAAD(高高度防衛ミサイル)が、イランとの戦争対応のため中東に転用された。これは韓米相互防衛条約の趣旨、そして毎年兆単位の防衛費を負担してきた韓国社会の常識と信頼を揺るがす出来事だ。韓国防衛のため配備された兵器が他国の戦場に投入される事態は、在韓米軍が果たして誰のために存在しているのかという根本的な問いを突きつけている。
韓国は毎年、巨額の費用を支払って米軍駐留の支援を続けている。韓米防衛費分担特別協定(SMA)によれば、今年韓国が負担する分担金は1兆5192億ウォンで、前年より8・3%増加した。莫大な税金を拠出する理由は明確だ。北韓との戦争や北韓の脅威に備え、抑止力を確保するためである。
しかし今回のTHAAD移送により、韓国は中核防空網に空白を抱えることになった。THAADは迎撃高度40~150キロ区間で弾道ミサイルを防御する体系であり、高高度防衛の要である。北韓が高角度発射や変則軌道でミサイルを発射した場合、韓国は対応手段を持たない。韓国軍が運用するパトリオット(PAC3)と天弓Ⅱは15~40キロ高度でしか迎撃できないためだ。
海外メディアや軍事専門家の分析によれば、慶尚北道星州のTHAAD基地から発射車両6台が京畿道烏山空軍基地へ移動し、最大48発のTHAADが中東に搬出された可能性がある。
韓国はコンビニか「戦略的柔軟性」への不信感
米国は以前から、在韓米軍を韓半島外でも運用できる「戦略的柔軟性」の概念を推進してきた。今回THAADの移動は、その戦略が現実化した事例といえる。
しかし韓国の立場から見れば、「自国防衛」に空白が生じる状況であり、不安を抱かざるを得ない。在韓米軍が韓国防衛に専念せず、軍事作戦の兵站拠点の役割を担っているのではないかとの疑問が生じるのも免れない。
特に今回のTHAAD転用が、米国のミサイル在庫不足によるものだとの分析は衝撃的だ。米軍が保有するTHAADは650発未満と推定され、今回の戦争で相当量を消費したとの観測がある。不足分を補うため韓国配備分を持ち出したというわけだ。韓国政府高官は海外メディアのインタビューで「米軍の装備不足がこれほど深刻とは思わなかった」と困惑を示した。
中国の冷笑と北韓の挑発
この隙を突き、中国は冷笑的な反応を示し、北韓は挑発の度合いを高めている状況だ。
中国の英字紙グローバル・タイムズは11日付で「中東配備のTHAADが攻撃を受け重大な戦闘損失を被ったため、韓国のTHAADを再配備しようとしている。こうした兵器が(米国の)同盟国を防衛できるのか疑問だ」と主張する記事を掲載した。
北韓も4日と11日、新型駆逐艦から核搭載が可能な巡航ミサイルを相次いで試験発射した。今回の発射は、在韓米軍がTHAADやパトリオットなどの防空資産を韓国から搬出する最中に行われた。
李在明大統領は「対北抑止に問題はない」と述べたが、現場の不安は高まっている。
米・イスラエルとイランの戦争が長期化すれば、パトリオットやATACMSなど他の兵器群まで追加転用される可能性が取り沙汰されている。そうなれば在韓米軍の役割と韓米同盟の性格を改めて問い直す事態となりかねないとの懸念が高まっている。
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北韓の短距離弾道ミサイル「大口径放射砲」の発射シーン