原発ジレンマに陥る韓国

AI派遣争いの中、エネルギー政策は見通しゼロ
日付: 2025年12月15日 12時00分

 「生成AI」と「半導体」という巨大な産業の波が押し寄せている。その波を乗り越える最大の鍵は電力だ。しかし韓国のエネルギー政策は舵を失い漂流している。政府が、すでに国家計画として確定した新規原発建設を再び白紙から見直す方針を示したことで、産業界の不安が一層高まっている。
金星煥・気候エネルギー環境部長官は今月初めの記者懇談会で、「第11次電力需給基本計画に盛り込まれた新規原発2基の建設可否を、公論化手続きを経て決める」と述べた。今年2月、2037~38年の稼働を目指し1・4GW級の大規模原発2基を建設する方針を確定していたが、それが事実上の振り出しに戻った形だ。
原発は用地の選定から建設、稼働まで、少なくとも10~15年を要する長期事業だ。政権が替わるたびに計画が変われば、電力供給に空白が生じるリスクがある。
金長官は再生可能エネルギーの拡大や需給調整の柔軟性を理由として挙げたが、産業界からは「国家的な基幹戦略をその都度覆すのは予測可能性を損なう」との批判が出ている。
懸念が高まる背景には、電力需要がこれまでとは桁違いの速度で増えている現実がある。生成AIブームの火付け役となったChatGPT、その学習に必要なエヌビディアのGPU26万台をフル稼働させるだけで、大型原発1基に迫る電力が必要とされる試算もある。さらに、龍仁半導体クラスターは、完工予定の50年までに追加10GW以上の追加電力が必要になると見込まれている。これは単に発電所を何基か増やせば済む問題ではない。
問題は電力のクオリティーだ。太陽光や風力は天候によって発電量が大きく変動するため、24時間安定電力が不可欠な半導体工場やデータセンターの「基底電源」としては不十分だ。再エネ拡大は必要だが、原発という確実な「定数」を排除し、不安定な電源だけで産業用電力を賄おうとする発想は、エネルギー安全保障の根幹を揺るがしかねない。
一方、米国はAIインフラを国家安保レベルの戦略資産と位置づけ、原発政策を急速に前倒ししている。ラトニック米商務長官は最近、「韓国・日本からの対米投資7500億ドルを米国内の原発建設に優先投入する」と明言。米国は大型原発に加え、小型モジュール炉(SMR)も含め電力網の強化に取り組んでいる。
その姿勢は韓国と鮮明な対比を成す。韓国企業は米国の原発投資に参加する一方で、肝心の国内原発の新設は停滞するという「矛盾」に陥る危険がある。文在寅政権下の脱原発政策によって原発産業生態系が弱体化し、輸出競争力までも低下した「負の再現」を避けるべきだ。
皮肉にも新規原発の議論が停滞する一方、老朽原発の寿命延長は進んでいる。原子力安全委員会が古里2号機の継続運転を承認したのに続き、古里3・4号機も来年中盤に審査が行われる予定だ。
結局、必要なのはイデオロギーや政治理念ではなく「現実的な電力需給戦略」だ。AI・半導体の時代に急増する電力需要を満たしつつ脱炭素を実現するには、再エネと原発の組み合わせが不可欠である。安全性が高められた次世代原発やSMRを整備し、再エネの変動を補完する形で「韓国型エネルギーミックス」を構築すべきだ。
エネルギーは国の存続に関わる問題だ。不毛な論争で時間を浪費している余裕はない。政府は確定済みの新規原発2基の建設を速やかに進め、AI時代に見合った現実的な電力供給計画を早急に提示すべきだ。

河南市の変電所を視察する金星煥・気候エネルギー環境部長官(前列男性)


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