3370万件。韓国人口の約65%に相当する個人情報が丸ごと流出した。単なるハッキング事故ではない。韓国物流界を代表する巨大企業クーパン(Coupang)で起きた事件である。さらに衝撃的なのは、この事態の中心に「中国籍の開発者」がいたと指摘されている点だ。
クーパンは「ロケット配送」を武器に短期間で韓国市場を席巻した。注文後早ければ6時間(ソウル基準)で届く便利さに、多くの利用者が魅了された。
かつてソフトバンク孫正義氏が出資したことで「日本企業だ」と不買運動が起きた時期もあったが、コロナ禍を経てクーパンは完全に「生活インフラ」として定着した。
しかし、その巨大な配送帝国を揺るがす情報流出の衝撃は計り知れない。
流出した韓国人のデータはすでに海外へ拡散し闇市場で売買されており、クーパンの実質的支配者である金範錫議長は依然として表舞台に姿を見せていない状態だ。
利益は韓国で吸い上げ、責任は米国の法体系の背後に隠れ、システム運営は中国の人材に委ねるという「奇妙な三角構造」。これこそが今回のクーパン事件の本質だ。
クーパンの心臓はメイドインチャイナか
これは予見されていた人災だった。クーパンのシステムは見た目こそ米国企業を模しているが、実際の運営モデルは中国のアリババやJD.comに極めて近いと業界内で指摘されている。
クーパンは直販から物流、配送、さらにはOTT(配信サービス)まで事業を拡大し、全工程の垂直統合を選んだ。この構造はまさに中国流通企業の典型である。この巨大システムを短期間・低コストで構築できた背景に、「中国人技術者の大規模投入」があったのではないかとの疑念が強まっている。
実際、中国の求人プラットフォーム「マイマイ」には、北京・上海でクーパン開発者を募集する求人が多数掲載されている。そこで採用された中国人材が物流・データなど中核システムを担当しており、今回の容疑者が中国籍の元社員だったことも判明している。
情報セキュリティの専門家は「中国は国家主導のサイバー攻撃が最も活発な国の一つ。そうした国の人材に韓国国民の個人情報システムを任せたのであれば、『猫に魚を預けるようなもの』だ」と警告する。クーパンの「親中的な人員構造」が招いた必然の事故ともいえる。
韓国人情報は1件1万ウォン、一方で役員は株を売却
流出したID情報は中国の闇市場のみならず、Googleなどのネット上でも堂々と販売されていた。中には「クーパン韓国人ID1件=1万ウォン」という値札まで付いていた。実際に記者が確認したところ、購入したIDで問題なくログインでき、氏名・電話番号など個人情報がそのまま表示された。
二次被害は現在進行形だ。入店業者23万件以上が売上急減に追い込まれ、消費者はスミッシング被害への恐怖に晒されている。
その最中、クーパンの主要経営陣が、情報流出が公になる直前に数十億ウォン規模の自社株を売却していた事実が明らかになった。社内で事故を認識した状態での株売却であれば、典型的な「インサイダー取引」として重い責任を免れない。
さらに問題を複雑にするのが、クーパンの歪んだ支配構造である。批判が殺到すると、クーパン側は「韓国法人の代表が責任を負う」と説明した。しかし米国証券取引委員会(SEC)に提出された報告書には「韓国事業を含む全ての意思決定権はCEO(金範錫)にある」と明記されている。
権限は金範錫議長に集中し、責任は韓国法人代表に押し付けるという二重構造。韓国市場で巨額の利益を上げながら、肝心な局面では米国企業の看板の後ろに雲隠れするという構造的な矛盾が再び露呈した。こうした状況では、被害補償も責任追及もままならない。
17日、国会はクーパンに対する国政調査の聴聞会を開く。与野党が合意して開く久々の聴聞会だ。国会は金範錫議長を証人として喚問したが、出席するかは依然として不透明だ。
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クーパン物流センターの配送トラック