10代の友人関係や、悩みについてネットで検索してみると、さまざまな事例が確認できる。友だちができない、クラスで仲間外れにされている、等々の相談をはじめ、10代の子どもを持つ親からの、子どもの友人関係を心配する声も少なくない。韓国ではどうかと調べてみると、もちろん同じような記事がヒットするのだが、成績や大学入試に関する相談や指導のほうがはるかに多いことに驚く。
『ONE:ハイスクール・ヒーローズ』の主人公、ウィギョムはまさにそんな、友情よりも成績が気になる高校生だ。まだ高校一年生とはいえ、父親は彼に過度の期待を寄せている。それもそのはず、エリート一家で育った父もまた、激しいプレッシャーを背負っていたのだ。一族の手前、何が何でも息子を一流の医者にしたい父。その思いがウィギョムの兄を押しつぶしてしまったことは、よくわかっている。だからこそ、二度と失敗は許されない。ウィギョムこそは何が何でも医者にしなくては、メンツが立たないのだ。
父から医学部進学を強要され、成績が下がると体罰を受けていた兄は、やがてウィギョムに暴力を振るうようになる。強者による力の連鎖はこうして続いていく。医学部入学を果たした兄の人生は、そこで途絶えてしまう。兄に代わって、父の敷いたレールに乗せられたウィギョムはがむしゃらに勉強して医学部に入る道しかない。
兄からもらった、壊れて音の出ないオーディオプレイヤーのヘッドホンを耳に当てて、雑音をシャットアウトしたウィギョムは勉強に没頭する。転校先の学校でイジメが横行していても我関せずだ。見て見ぬフリをしているわけではない。彼には見えていなかった。 だがそんな彼を変えたのも兄の存在だった。自分が受けた暴力を、そのまま強い相手に返した時、ウィギョムの反撃が始まる。強い相手を叩きのめし、さらに強い相手へと向かうウィギョム。
児童文学『ボンジュール・トゥール』の主人公、ボンジュはどうだろう。彼もウィギョムのように、強者と弱者の間で日々闘っているのだろうか。転校初日、ボンジュという名前が「ボンジュール」の発音とよく似ているために、フランス人の笑いを誘うことを彼はよく知っていたが、クラスメートたちはそのせいで彼をからかったり笑いものにしたりはしなかった。トゥールの子どもたちはパリの子どもたちより素直で素朴だったようだ。すっかり緊張の解けたボンジュだったが、同じ東洋人と思われる生徒の存在に気付いて、胸がざわついてくる。その子は髪を金髪に染めていた。東洋人が髪を金髪に染めることにボンジュは反感を抱いていた。黒髪が恥ずかしくてヨーロッパ人のマネをしている、と感じるのだ。そんな反発を抱くこと自体、強者と弱者の構図そのものとも取れる。
金髪の東洋人がトシという名の日本人とわかって、ボンジュには闘争心が沸き上がって来る。トシが発表授業で日本の紹介をしたと聞き、トシより上手く、韓国を紹介しようと心に決める。水泳の授業の日。練習なんだから他の子と同じペースで泳ぐようにと言われたのに、トシに負けたくなくて力の限り泳いでしまう。泳ぎ終わると、みんなが二人に注目していた。「これは試合じゃないよ」と先生が笑っていた。他の生徒も笑う。だがボンジュにとってはトシに勝ったかどうかが問題だった。
共感にも友情にもまだまだほど遠い彼ら。絆はどのように育まれていくだろうか。