【読書】藤原不比等 橋田惠子著

日付: 2025年11月26日 12時05分

 〝在日2世〟の藤原不比等(659~720年)の生涯を時系列順に辿った意欲作。不比等は権威をもつ文人として、時の為政者などとの間に発生した世継ぎ争いでは、冷静かつ冷酷に立ち居振る舞う面を持つ。半面、愛する人々との死別などに際しては感情をおもむろにし、人間らしい姿を見せてくれる。読者は、本書を通じて不比等の不思議な魅力の虜になっていくだろう。
新羅の武烈王こと、金春秋(603~61年)が大化の改新を主導した、藤原(中臣)鎌足(614~69年)その人であると設定したところが、本書の想像力に溢れた点。武烈王を継いだ文武王こと、金法敏(626~681年)が新羅での王位を早期に譲られていた設定が加えられている。法敏も不比等の兄として作中で重要な役割を果たす。
『古事記』『万葉集』『日本書紀』などの編纂にあたった藤原鎌足(=金春秋)の子・不比等に焦点が当てられているため、古典に盛られていたかもしれないイフ・ストーリーを豊かに描いている。
高句麗・百済・新羅、韓半島の三国時代の勢力図と切っても切り離せなかった、古代日本との政治力学的な関係性に迫ったのが本書の最大の魅力だ。
郁朋社刊
定価=1320円(税込)


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