高市早苗首相は、本年11月7日、衆議院予算委員会において、台湾をめぐって、「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても”存立危機事態”になりうる」と述べたのです。これに対し、中国の駐大阪総領事が「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟は出来ているのか」と反論したとして、大騒ぎになっています。政治評論家としての橋下徹氏は、総領事の国外退去処分を主張しており、高須克弥氏に至っては、「宣戦布告だな」とまでいう始末です。急に「戦争」が近づいてきた感がします。
そもそも”存立危機事態”とは、「日本と密接な関係にある他国への攻撃により、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合をいいます。
それには、(1)台湾を海上封鎖するため中国軍が武力を行使(2)米軍が海上封鎖を解くために来援(3)それを防ごうと武力行使が発生などの条件が生じれば、”存立危機事態”となり、日本が戦争に突入することにもなるのです。この場合、敵国は中国です。中国は核兵器を保有する軍事大国です。悪くすれば太平洋戦争の時と同じく数百万人の死者と焼野原を覚悟しなければならないくらい重大なことです。強硬論者はそれだけの事態の受入れを当然だと考えているのでしょうか。
ところで、日本は前の戦争の後始末でさえもまだ出来ていないのです。台湾に対してはサンフランシスコ平和条約第4条に定められた台湾住民が有する財産・請求権の処理を施政を行っている当局(台湾政府)との間で取極(特別取極)を締結しなければならないのです。ところが、平和条約締結後70年以上経過しても日本はまだ台湾との間でこの「特別取極」を締結していないのです。
ただし、私たちの戦後補償運動の高まりの中で、台湾の人の声を受け、日本政府は1995年に元金の120倍にあたる金額で補償しようとしたのですが、余りに倍率が低く不満が爆発したほどでした。
しかも、この措置は日本政府の一方的提案であり、サンフランシスコ平和条約で要求されている現地当局(台湾政府)との「取極め」ではなかったのです。戦後、台湾では日本の公共資材や日本企業の財産を台湾政府ではなく、私党である国民党が接収したのです。そのため国民党は世界一の金持ちになりました。これを整理するという台湾側の事情を待たなければならないという問題もあります。
先の大戦においては、台湾の人々も「日本人」として戦地に赴き、日本のために戦いました。軍人・軍属として20万7183人が参戦し、そのうち3万306人が戦死したということですが、戦後に国籍を喪失したとして見捨てられたのです。サンフランシスコ平和条約で、日本に課せられた特別取極め締結義務も上述のように無視されてきました。
それでも台湾人は今やまぎれもない「親日国家」です。その台湾に対する中国の進攻がなされた場合、日本が”存立危機事態”として、戦争に加わるというのなら、台湾人は大歓迎かもしれません。
しかし、その敵国の中国こそ日本との戦争における損害は、共産党が死者2100万人と発表するほど桁はずれに甚大です。72年の日中共同宣言で戦争賠償は「放棄」されたのですが、その主語は「中華人民共和国政府」です。個人の被害は補償されていないのです。
いずれにせよ、先の戦争の後始末もできていない国がその国に対して次の戦争に乗り出すなどあっていいはずがありません。一度戦争をやると戦後補償が終わらなければ次の戦争を始めることはできないなどのルールを確立するべきだと思うのです。