韓国で高齢者貧困問題が深刻化している。統計庁のデータによると、2023年の相対的貧困率(中央値所得の50%未満)は65歳以上の高齢者で39・8%に達し、OECD加盟国で最高水準だ。特に女性の高齢者の貧困率は43・2%と高く、全体の相対的貧困率14・9%を大幅に上回る。
韓国の高齢者貧困と労働状況
2025年推計では韓国の貧困高齢者は460万人に達する。労働面では、65歳以上の雇用率は38・2%でOECD平均の25%を上回る(25年OECD雇用見通し)。70歳以上でも30・7%、75歳以上で24・8%が就業している。ただ、多くは自営業や単純労働で、年金不足や貯蓄不足から就労が強いられる状況だ。
こういったなか李在明政権は定年延長を国家課題に位置づけ、法定定年を現行60歳から65歳へ段階的に引き上げる法案を推進。民主党主導で11月中の国会通過を目指している。
具体策として、(1)26年から61歳(2)31年から62歳(3)36年から63歳(4)41年から65歳への4段階延長を計画。対象は常用労働者で、公務員は別途65歳定年制を23年から導入済み。企業には賃金ピーク制(定年延長と引き換えに賃金削減)の導入を奨励。
一方この政策について批判の声もあがっている。韓国雇用連盟(KEF)の25年調査では、若者の61・6%が「若年雇用減少」と反対し、31・4%が法改正自体に反対。韓国銀行の24年分析では、高齢者1人増で若年雇用が0・4~1・5人減少するとの試算がある。
韓国は高齢者の貧困問題同様に若者の就職率の低さも社会問題化しており、両者を同時に解決するには矛盾が生じている。
日本の高齢者貧困と労働状況
日本は高齢者貧困率が20%と韓国より低い。労働面では、24年の内閣府データで65歳以上の雇用率は25・2%。そのうち65~69歳が52・0%、70~74歳が34・0%、75歳以上が11.4%。
25年のOECD報告では、55~64歳の雇用率は79・2%とG7最高。労働力全体に占める高齢者の割合は13・4%(2022年)となっている。
韓国と異なるのは再雇用制度が普及し、健康寿命延長による積極的参加が目立つ。問題は資産格差。
厚生労働省の23年国民生活基礎調査によると、65歳以上単身世帯の平均貯蓄額は約1500万円だが、中央値は600万円程度。上位10%の高齢者は金融資産3000万円以上を保有する一方、下位30%は100万円未満で、貧困線以下の世帯の約4割が貯蓄ゼロ(24年内閣府推計)。
特に単身高齢女性の格差が顕著。25年の総務省データでは、65歳以上の女性の約29・9%が貧困状態で、貯蓄額の中央値は男性の半分以下。賃貸住宅居住率も高く、24年の国土交通省調査で単身高齢者の約45%が公営住宅や民間賃貸に依存し、家賃負担が生活を圧迫。資産格差の要因は、バブル期の不動産取得の有無と年金受給額の差。厚生年金加入歴の長い男性は月額平均16万円受給するが、国民年金中心の女性は5・5万円程度。
また日本は核家族化が拡大し、24年に7万件以上の孤独死が発生した。これに対して自治体は地域包括ケアシステムを推進し、25年までに在宅支援を拡大。
韓国は所得偏重の貧困(39・8%)と低質労働が課題で、定年延長は年金枯渇(33年65歳移行)と労働力不足を緩和するが、若年雇用への影響が大きい。
日本は資産格差による貧困(20%)と制度化された柔軟雇用が特徴で、韓国は日本型の再雇用率向上や賃金ピーク制改革を参考にすべきだろう。
両国共通の課題は女性・単身者対策と在宅ケア拡大。韓国は若年雇用支援と連動した定年延長、社会的合意形成が急務といえる。