政府が「2035年までに温室効果ガスを60%削減する国家目標(NDC)」と「AI三大強国への躍進」との二つの目標を同時に掲げる一方で、肝心の原子力発電を軽視するという政策上の矛盾に陥っている。電力需要の急増が前提となるAI時代を目指すとしながら、温室効果ガスを出さない最も現実的な手段である原発の稼働には消極的。こうしたちぐはぐな姿勢が国家競争力の足かせになるとの懸念が広がっている。
古里原発の再稼働いまだ決まらず
気候エネルギー環境部は5日の公聴会で、2018年比で50~60%削減する案をNDCとして示した。これは文在寅・尹錫悦両政権が掲げた目標である40%より10ポイント以上引き上げた数値であり、李在明大統領が9月の国連総会で「責任ある削減目標を策定する」と表明したことを受けたものだ。
しかし、産業界と市民団体の双方から「現実味に欠ける」との声が上がる。環境団体は「61%以上に引き上げるべきだ」と主張する一方、産業界は「48%でも厳しい」と反発。結果として政府案は、双方の意見を折り合わせた”政治的妥協案”に過ぎないとの見方が出ている。
実行手段も見通せない。目標を達成するには産業・輸送・発電部門の詳細なロードマップが必要だが、具体策はまだ示されていない。
政府はAI三大強国を目指して100兆ウォン規模の投資計画を打ち出し、インフラ拡充を進めている。だがAIは「電気を食う怪物」だ。NVIDIAが韓国に供給予定のGPU26万台を稼働させるには、超大型データセンター数棟分の電力が必要とされる。この事業にはサムスン、SK、現代自動車、ネイバーなど主要企業と政府が参加している。
電力研究院や産業界の試算では、50年の国内電力使用量は現在の1・8~2倍に達する見込みだ。現状の供給構造では、たとえNVIDIAのGPUを導入しても稼働は困難だという。
こうした状況下で、政府が掲げた「第7次エネルギー利用合理化基本計画」は、現実とかけ離れた理想論に過ぎないとの批判も出ている。安定した電力供給なくして、AI産業の競争力も成立しないからだ。
矛盾の根底には、政府のあいまいな原発政策がある。政府は炭素削減を訴えながらも、無炭素エネルギー源である原発の稼働には慎重姿勢を崩していない。
象徴的なのが古里2号機だ。23年4月に運転期限を迎えて停止して以来、再稼働(継続運転)審査が2年半近くも遅れている。原子力安全委員会はすでに2度審議を見送り、13日に3度目の審議を予定している。一部委員が、1982年の初許可時には求められなかった「放射線環境影響評価」の追加資料を要求しており、審議が長期化している。
1700億ウォンを投じて設備の改修と安全性の検証を完了しているにもかかわらず、結論を先送りするのは政治的配慮によるものではないかとの疑念も強い。古里2号機の再稼働判断は、2029年までに運転期限を迎える10基の原発の行方を左右する試金石となる。
言葉と行動が乖離する主管大臣
エネルギー政策の混乱は、金星煥・気候エネルギー環境部長官の曖昧な姿勢に起因しているとの指摘もある。金長官は「私は脱原発主義者ではない」と弁明してきたが、実際の政策運営は異なる。
すでに確定している第11次電力需給基本計画に盛り込まれた新規原発建設について「再検討の可能性」に言及し、候補地選定委員会は3カ月間開かれていない。古里2号機の審査遅延も同じ構図だ。このため、「口先だけの非脱原発主義者」との批判が根強い。技術的検証を終えた原発の再稼働を遅らせるのは、政治的責任回避に見える。
AI強国を唱えつつ原発に背を向ける政府の姿勢は、国際的な流れとも逆行する。米国はウェスティングハウス社などと800億ドル規模の新型原子炉建設契約を結び、日本も次世代小型モジュール原子炉(SMR)の開発を加速させている。
AIはすなわち電力であり、その安定供給の要は原発だ。AI産業が進化するほど、無炭素かつ大容量の電力が不可欠になる。現実的な解決策は「脱原発」のスローガンではなく、安全な原発の効率的活用と政策の一貫性確保にある。
AI強国を掲げながら脱原発を進める政策は、明らかにちぐはぐだ。このままでは、理想と現実の乖離が広がるばかりだろう。
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原発古里2号機は安全性検証を終えたが、再稼働の決定が遅れている