いま麹町から 63 髙木健一

靖国神社問題ー参拝の是非と歴史認識
日付: 2025年10月15日 10時26分

 自民党の高市早苗総裁が今年の靖国神社の秋季例大祭中の参拝を見送る方向との報道がされています。
靖国参拝論者の高市総裁が中国や韓国の反発を考え、今回は見送るとの政治的判断を評価する人もいます。
そもそも靖国神社参拝が問題となったのは、憲法が定める「政教分離」の原則に反するのではないかという批判から始まりましたが、1978年に靖国神社が”密かに”A級戦犯を合祀していたことが明らかになったからです。
靖国神社とは「国家のために尊い命を捧げられた人々の御霊を慰め、その事績を永く後世に伝える」場所だというのです。しかし、靖国神社は民間施設です。
その靖国神社は戦争自体を肯定的にとらえ、戦死者を英霊としてあがめるのです。それ故、靖国神社の境内にある「遊就館」には「日本国憲法や教育基本法の制定は日本の弱体化を狙うものだった」と展示で解説されており、”ポツダム宣言受諾拒否”が明記されています。
”ポツダム宣言受諾拒否”とは戦争を継続し、さらなる空爆被害や核爆弾の被害を受忍せよというのでしょうか。
勝利への展望なしの戦争継続の主張など無責任そのものです。このような歴史認識のもとに極東軍事裁判(東京裁判)さえも否定するのは時代に逆行するものと批判されても仕方がないと思います。
それ故か、昭和天皇自身、A級戦犯の合祀を不快に思い、1975年11月21日を最後に親拝を行っていないのです。
「合祀を受け入れた松平永芳(宮司)は大馬鹿」(侍従日記)とさえ話したということです。ということは天皇の意向に反する合祀決定は宮司による独断であり、それなら撤回も容易なはずです。
日本国はサンフランシスコ講和条約を結び、「日本国は極東国際軍事裁判所並びに日本国内および国外の他の連合国戦争犯罪の裁判を受諾し」たとしているので、東京裁判の有効性については国際的には決着しているのです。
ところで、「裁判を受諾」するとは、判決主文の刑の執行のみを言うとする意見もありますが、事実認定を含めた裁判全体を受諾したとみるのが政府の見解です。つまり、戦争犯罪の事実認定と結論を日本国も判決通りに認めたということです。
いずれにせよ、”ポツダム宣言受諾拒否”とか、日本国憲法は日本の弱体化を狙うものだなどと考える歴史認識を持つ時代逆行の神社が秘密裏にA級戦犯を合祀して、天皇でさえ親拝できないようにした靖国神社に、国会議員、まして首相としての参拝はありえないので、なぜ問題になるのかわかりません。
中国や韓国が反発するからではなく、サンフランシスコ条約や日本国憲法の精神に基づき、先の大戦は日本による侵略戦争とみなされても仕方ないと潔く認めるべきなのです。中国において多くの民間人を殺害した事実は否定できません。
香港で巨額の財産を奪い、東南アジアや太平洋の島々でもロームシャに強制労働を強いた被害があります。それらの被害の回復が戦後補償なのです。にもかかわらず、日本は一部被害国には賠償をしていますが、被害者個人に対してはどうでしょうか。
これまで指摘したように私たちの運動によってサハリン残留韓国人や在韓被爆者そして元慰安婦に対しては十分とは言えないのですが、それなりに補償がなされたといえます。しかし、その他はほとんど手付かずです。
戦後補償を実現するためには戦争犯罪を認めることが前提です。アジアに対しては靖国参拝よりも大切なことがあるのです。


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