いま麹町から 62 髙木健一

慰安婦合意(2015年)の意味ー「最終的かつ不可逆的に解決」
日付: 2025年09月30日 10時41分

 前号(「いま麹町から」第61号)で、私はいわゆる慰安婦問題について「アジア女性基金」による三本の矢の施策(慰安婦1人につき日本国民から200万円、日本政府から300万円、総理大臣からお詫びの手紙の三本の矢、1994年)を運動の成果として指摘したのですが運動体、特に韓国の挺隊協が強硬な反対をしたため、日韓の間で未解決問題として残っていたのです。
その後、アメリカからの圧力もあったと聞きましたが、安倍政権は韓国側と交渉し2015年12月28日、日韓両外相による日本軍「慰安婦」問題に関する「合意」が共同で記者発表されました。
この「合意」とは、(1)日本政府は「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」責任を痛感し、安倍晋三首相は「心からのお詫びと反省の気持ち」を表明するとした上で、(2)韓国政府が設立する財団に日本政府が10億円を拠出し、すべての元慰安婦の「名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しのための事業」を行うとするものでした。
そして、これにより慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」し、「今後、国連等国際社会でこの問題について非難・批判することは控える」としたのです。
この合意書の「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」するなどの表現はいかにも政治家の意向を聞いた日本の「優秀な」官僚の考えそうな言葉です。似たような表現は、1965年の日韓請求権協定第2条の「両国は請求権問題が完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」にもあります。
韓国人は信用ならん、言ったことをすぐ変更すると日本の政治家が思っていることがよくわかります。
しかし、上記の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」とあっても解決されたのは、日本国の有する「外交保護権」であって、個人の権利については解決していないとしたのは日本の官僚の答弁だったのです(平成3年8月27日参議院予算委員会、柳井外務省条約局長)。
しかも、日本の国会でも昭和40年法律第144号で、韓国人の有する財産権は「昭和40年6月22日において消滅したものとする」との法律をわざわざ作っているのです。
最近になって日本政府は個人の請求権も全て解決済みだと言い出しているのは矛盾があり、論理が通りません。言葉に信用がないのは日本政府の方だと言えるのです。
これと同じことは、2015年の上記の日韓外相の「合意」についてもいえます。
この「合意」には、日本政府は日本軍の関与の下に慰安婦の女性の名誉と尊厳を傷つけ、安倍首相は「心からのお詫びと反省の気持ち」を表明したのです。世間では「ごめんで済んだら警察はいらない」という言葉があります。
「心からのお詫び」を表す責任や償いの誠意ある行動が必要なのです。しかし、安倍首相は逆に記者団に「子や孫、その先の世代に謝罪し続ける宿命を負わせるわけにはいかない」と強調した(15年12月29日「読売新聞」)のは、上記の合意の精神に反するものといえるのです。
日本政府には例えば、再発防止の措置や教科書への反映や教育上の措置などが求められるのです。
しかも「合意」には「心の傷の癒しのための事業」を行うとあります。そのための歴史館の建設も考えられます。
このような政策が伴えば、15年の上記「合意」はステップアップしたものと評価できるのです。
そのようなことを何一つせず、安倍首相のように「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」したことのみを強調するのは醜態であるとさえ思うのです。


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