米ジョージア州の現代自動車・LGエナジーソリューションのバッテリー工場建設現場で、300人を超える韓国人労働者が一斉に拘束される事件が発生し波紋が広がっている。ウォールストリートジャーナル(WSJ)は「トランプ大統領が望む海外投資を抑制する要因」と批判を展開。これに対しトランプ大統領は自身のSNSを通じて「外国企業が自国の専門家を連れてきて、我々米国民を指導してもらいたい」と発言し火消しを図った。今回の事態は韓国式「パリパリ(スピード重視)」文化と現地の法律との衝突を超え、米国の投資誘致政策の矛盾と問題点を露呈する格好となった。
成果主義が招いた事態
今回の事態の背景には米国のインフレ抑制法(IRA)がある。
IRAは、電気自動車・バッテリー生産に補助金を支給しつつ工場完成期限を厳格に定めた。韓国企業は世界市場を先取りするという目標の下、工事のスピードを上げることに集中。だが現地の熟練建設人材が不足すると、一部の下請け企業は正規就労ビザではなくESTA(電子渡航認証システム)などで韓国人労働者を現場に投入した。
これは業界内では暗黙の慣行だったが、明白な米国法違反であった。韓国企業の成果優先主義と、いわゆる「パリパリ」文化が現地の法律と衝突したのだ。
交錯する視点とトランプ大統領による火消し
事件直後、韓国メディアは「過剰な取り締まり」だと批判した。
一方、海外メディアは法的問題と捉えた。ロイター、APなどは単に「移民法違反の摘発」と報じただけで、経済・外交的文脈には重きを置かなかった。
韓国企業の管理不備が指摘されることはなかったが、「法を守らない韓国企業」というニュアンスが読み取れた。しかし米国メディアの中にも、今回の事態は過剰な対応だとする見方もあり、対米投資誘致に支障となる恐れがあるとの懸念が出ている。WSJは12日付の社説で、手錠や鎖に繋がれて連行される韓国人の姿が本国で否定的に映ったと指摘し、「ジョージアでのような急襲は、トランプ大統領が望む海外投資を抑制する要因だ」と正面から批判した。
事態の深刻さを認識したのか、トランプ大統領も自ら動いた。14日、自身のSNSで「私は彼ら(対米投資の外国企業)が一定期間、自国の専門家を(米国に)連れてきて、我が国民を教育・指導してほしい」と投稿。過剰な取り締まりで投資心理が萎縮しかねないとの批判を意識し、事態の沈静化を図ろうとした発言と見られる。
ひとまず収拾、残る課題
外交部は米国との協議を通じ、強制送還の代わりに「自
主帰国」で事態を収拾した。しかしこれはその場しのぎの対策に過ぎず、根本的な解決ではない。企業が海外で法規を軽視する慣行を繰り返せば、「韓国は法を軽んじる」という認識が広がり、将来の対米交渉で不利に働く恐れがある。
したがって造船・半導体・鉄鋼など他の産業分野に問題が飛び火する前に先制的な対応が急務だ。企業は工程遅延を受け入れてでも不法就労者の整理をし、政府も米国にH―2B(短期就労)ビザ枠の拡大を要請するなど、合法的な人材派遣のための方策を模索しなければならない。
「ジョージア事件」は明確な教訓を残した。違法的に労働をしたということは事実。企業は短期的な成果にとらわれず、徹底したコンプライアンス体制を整えなければならない。
政府は海外人材運用に関する制度的支援と監督を強化すべきである。韓米経済協力が安定軌道に乗るためには、「パリパリ」ではなく「法とルール」に基づいた戦略こそが重要だ。
トランプ政権の強硬策は移民政策の観点から理解できるが、EV産業のような戦略分野で熟練工を排除し、米経済自体を損なうだろう。対米投資を行う日本にとっても、この問題は他人事ではない。各企業のコンプライアンス徹底は当然として、関係国が連携し、米側に強硬策の是正と安定した事業環境の確保を粘り強く求めていくべきだ。