高永喆 韓半島モニタリング 第53回

米中対立の中で失墜した韓国外交
日付: 2025年09月09日 10時21分

 9月3日、韓国政府が中国の戦勝節80周年記念式典に国会議長を派遣。西側陣営の国々が参加しない中、韓国の交錯した二股の歩みは、安保同盟国・米国との関係に緊張感を与えかねない危険をはらんでいる。
今回の戦勝節で習近平国家主席はプーチン大統領と金正恩総書記を最上級の礼節でもてなしたのに対し、韓国の禹元植国会議長は冷遇された。二股外交が双方から無視されるという事実を示した事例だ。今回の戦勝節は失脚説に焦った習近平が健在を見せびらかすハッタリショーのようだった。
ロシアも長引く消耗戦争に疲れており、金正恩はロシア・ウクライナ戦争に傭兵を売り込むほど経済低迷が深刻な状態にある。三者とも長期独裁による体制不安と経済低迷に焦っている共通点がある。不安と焦燥感を持った人たちが出会えば、互いに慰め合うことができようが、三者とも同床異夢の状態にあるようだ。
6日、トランプ大統領は国防部(Department of Defense)を戦争省(Department of War)に名称を変更、力による国際平和・安保に万全を期している。ちなみに、習近平の台湾侵攻の脅威は長期執権を狙った布石であることが分かる。
昨年、台湾は中国内陸の三峡ダムを破壊可能な巡航ミサイルを配備。ダムが破壊されれば、大陸中心地域が水没する大惨事を招かざるを得ない。台湾は海抜3000メートルの高山が全国に散在する天然の要塞国家だ。台湾海峡も米国海軍の軍事力が強力な抑止となっている。結局、中国の台湾侵攻は国の存亡がかかった冒険であり、不可能であることが分かる。習近平の台湾武力統一発言は、長期執権体制維持を狙った政治的な誤魔化しショーである。

◇米国から強力な警告

 韓国高官が戦勝節に出席した後、米国は即時報復措置を取った。ジョージア州の現代自動車とLGエネルギーソリューションの合弁バッテリー工場の建設現場で、電撃的に韓国人不法滞在者の取り締まりを行ったのだ。これは、単なる法執行を超えた強力な政治的メッセージとして解釈される。
米国の製造業の現場で不法滞在者の雇用は暗黙裏に容認されてきた慣行だった。今回の措置は、韓国に対する明白な警告とみられている。米国は今や同盟国に対し味方であるかどうかを明確に反証させている。中途半端な外交的綱渡りは容認しないという強硬な立場を示唆している。
今回のような米国の報復措置は、単に戦勝節への出席に対する不満を超え、李在明政権による全般的な対米外交への不信が累積した結果だ。
これまで、トランプ大統領から李在明大統領への当選祝いの電話がなかったこと、関税交渉に対する非協力的な態度(とくに内乱特検が烏山の米空軍基地への押収捜索に踏み切った事件など)が、米国の不信感を高めた。米軍基地に対する捜査行為は、米国の立場からすると自国の領土に対する侵犯と認識される可能性があり、同盟の信頼を根本的に損なう行為と見なされる。

◇外交失敗とその代償


すべての事態の根本的な原因は、日常茶飯事のように嘘をつく李在明政権の誤魔化しにあるとみられる。トランプ大統領との非公開会談で1カ月前の約束を覆す致命的なミスを犯し、信頼を失った。その結果、米国の強硬派に報復の口実を提供した。 
ワシントンの政界では、トランプ大統領が「韓国については話したくない」とし、極度の不快感を示したと伝えられている。また、韓国企業の米国進出が高人件費・強硬労組など、国内環境の困難による自発的選択であったことを考慮すると米国の高関税要求自体を非難することは難しい。300人以上の韓国人が逮捕された今回の事件は、外交的無能が国全体に致命的な影響を及ぼすという痛恨の教訓となった。
韓国は、経済と安全保障を支える米国との同盟関係を壊せない地政学的な戦略要衝地に位置している。安全保障と経済が一丸になった国際社会において、韓国は米国主導の技術同盟および経済ブロックに向かって舵取りしなければならない。
遠くの強大国と同盟し、隣の強大国を牽制する遠交近攻と勢力均衡が、経済安保と平和を維持する鉄則であることを肝に銘じなければならない。

高永喆(コ・ヨンチョル)
拓殖大学客員教授、韓国統一振興院専任教授、元国防省分析官。著書に『国家情報戦略』(佐藤優共著、講談社)、『金正恩が脱北する日』(扶桑社)など。


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