韓国コンテンツ振興院東京ビジネスセンター 李惠恩センター長に聞く

日本市場開拓へ事業者を支援
日付: 2025年09月02日 10時18分

 音楽、漫画、アニメーション、映画、ドラマ、ゲームなど、多様なK(韓国)コンテンツ産業の成長を促すため、制作、流通、人材育成などの支援をしている韓国コンテンツ振興院(KOCCA)東京ビジネスセンターは、日本でのビジネス展開を強化する拠点として韓国コンテンツ事業者が入居するKOCCA CKL TOKYOを昨年11月に開設した。今年1月にKOCCA東京ビジネスセンターのセンター長に就任した李惠恩氏に今後の展望などを聞いた。                   (佐竹一秀)

 KOCCA東京ビジネスセンターとKOCCA CKL TOKYOの活動内容について教えてください。

KOCCAは韓国文化体育観光部傘下の特殊法人で、コンテンツ産業を育成するための総括振興機関です。世界22カ国でビジネスセンターを運営し、日本には東京と大阪の2カ所にあります。
昨年11月には、都内に韓国コンテンツ事業者14社が入居するKOCCA CKL TOKYOを新設しました。事業者の活動を支援しながら、日本市場の開拓に注力していきます。

日本ではKコンテンツが幅広く愛好されています。その要因をどのように分析していますか。

日本に来て浸透ぶりに驚きました。Kコンテンツ人気の先駆けはテレビドラマ『冬のソナタ』でしょう。日本の昔の作品のような展開が、年配者を中心とした視聴者の心を捉えました。一方、若い人にとっては新鮮に映ったのでしょう。Kポップはグローバルに行き渡っていますが、アイドルのファッションやメイクなどが影響し、韓国旅行を楽しむ10代~20代の若い女性が増えました。こうして韓国文化に触れる機会が多くなり、受け入れに拍車がかかったのでしょう。

スマートフォンで縦スクロールして読む漫画であるウェブトゥーンの可能性は。

韓国発祥の文化であり、日本でも多くの韓国作品が紹介されています。日本のウェブトゥーン市場はこれから発展する未開拓の巨大市場です。
また知的財産(IP)ビジネスとしてほかのコンテンツに展開することも期待できます。韓国ではいま、ウェブトゥーンを原作にしたドラマが人気を得ています。さらにそれを基にした日本版リメイクドラマも制作されています。『俺だけレベルアップな件』は、ウェブ小説からウェブトゥーンに展開し、日本版ウェブトゥーンから、日本でアニメ化されました。
『梨泰院クラス』はウェブトゥーンからドラマ化され、さらに日本版としてリメイクされたドラマが『六本木クラス』です。

Kコンテンツ普及のために具体的に取り組んでいることは。

例えばBTSは音楽から始まりましたが、ゲーム、ファッション、雑貨、キャラクターなどの他のジャンルにも波及しました。KOCCAはIPを活用して、他の産業との協業や販路開拓などを支援しています。

KOCCAは6月に新たなグローバル戦略「H・I・P」を示しました。

「H・I・P」は「個性的な感性を生かしながら流行の最先端をいく」という意味で、CKLとして一貫して取り組んでいます。今年上半期の成果として、アマゾンプライムビデオで6月から配信した日本版ドラマ『私の夫と結婚して』は、日本国内での歴代視聴者数1位となりました。この作品は韓国のウェブ小説が原作で、まず韓国でドラマ化されました。その後、日本版としてスタッフ・俳優は日本人、監督は韓国人でリメイクされています。今後も韓日共同制作を推進し、日本市場向けの作品をつくっていくことを支援していきます。
実は韓国側制作者になぜ日本版の制作に取り組んだのかを聞いたところ、『IP事業を成功させたい』『海外市場向けに作りたい』という思いを口にし、『その足掛かりとして日本版を制作した』と言っていました。制作者のグローバル化の意欲を大いに刺激しているようです。

生成AI(人工知能)など新技術が注目されています。日本でどのように展開しますか。

新技術への取り組みは韓国は日本より早い傾向があります。日本では権利関係の問題もあり、慎重になっているようですが、コンテンツ制作が飛躍的に進展するのであれば、積極的に活用していいのではないでしょうか。今後、韓国と日本が共同制作する場合、この意識の差をどうするのかが課題だと考えています。このため、CKLでは10月下旬に生成AIで制作された映画の上映会を計画しています。韓日のクリエーターを招待して、交流の機会を設けるとともに、活用への意識を喚起したいと思います。

韓国コンテンツにとって、世界の中で日本市場はどのような位置付けでしょうか。

世界でも最も重要な市場です。単にマーケットというだけの捉え方はしていません。例えばKポップについては、アイドルを育成するときは、最初に韓国と日本でデビューさせることを想定しています。韓国は市場が小さいため、日本を国内同様に重視しています。大事なパートナーと言っていいでしょう。
日本とは生活習慣なども、他の国に比べて共通点が多いので、Kコンテンツが受け入れられやすくなっています。日本での反応は、他の地域へ進出する前のテストケースとして重要視しています。日本はコンテンツの競争力が高いので成功すると、他の国・地域での可能性も高まります。韓国と日本が協力すれば、世界市場でより大きな成果を上げることができるでしょう。

 

李惠恩(イ・ヘウン) 梨花女子大学歴史教育学科卒。延世大学大学院公共政策修士課程修了。韓国コンテンツ振興院音楽ファッション産業チーム長、地域コンテンツ振興団長などを経て、今年1月から韓国コンテンツ振興院東京ビジネスセンター長に就任。


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