DVD作品『北朝鮮帰国事業とは何だったのか?』は、日本人妻自由往来実現運動の会代表世話人の池田文子氏が制作した『第168次北送船』(1973年)及び『一目娘に会わせてください』(1976年)を収録し、さらに現在の池田氏のインタビュー、評論家三浦小太郎の解説等を付け加えた映像作品である。全体の編集は映像作家の稲川和男氏。稲川氏の優れた編集がこの作品の現代的な価値を分かりやすく伝えている。
『第168次北送船』では、朝総連の日本国内におけるテロ・工作・スパイ活動、朝鮮学校での反日・反韓国・反米教育など、その実態が拉致事件を除き、ほぼ全般的に告発されている。
当時の日本では、1968年の美濃部亮吉・東京都知事による朝鮮大学認可に象徴されるように、総連の危険性についてほとんど意識されていなかった。新潟港から帰国者をのせて旅立つ「北送船」を「現代の奴隷船」と批判し、万景峰号の非人道性と危険性を訴える映像は当時、このような正確な認識が広く認識されていれば、拉致事件も防ぐことができたのではないかと思わせる。
『一目娘に会わせてください』は、日本人妻自由往来を目指す運動と、当事者家族たちの訴えを記録したもので、北朝鮮で苦しむ日本人妻たちから故郷の家族に送られてきた手紙の哀切さが胸を打つ。戦後日本国が、これら同胞を救出できなかったことは、長く歴史の恥として記録されるだろう。
日本人妻は自分の意思で朝鮮人と結婚し、北に渡ったのだから自己責任だ、という声を聴くたびに、論理の是非以前にあまりに非情なものを感じてしまう。
人生のすべてが自己責任の一言で片づけられ、異郷の全体主義体制下で飢えと抑圧に苦しむ同胞を救出する意思も力もない、それが国家の正しい姿なのだろうか。この映像は単なる歴史の証言ではない。
いまだに拉致被害者を救出できない日本、そして同胞である北韓の民衆を解放できない韓国の現状を、この映像は今も告発し続けているのだ。