自主国防の理念と北核脅威の現実

「戦作権」移譲論争が再燃
日付: 2025年07月23日 09時51分

 安圭佰・国防部長官候補が「任期中に戦時作戦統制権(戦作権)移譲を目指す」と発言したことで、センシティブな安全保障問題が再び世論の俎上に載せられている。戦作権移譲とは、戦時の指揮権を米軍主導の韓米連合司令部から韓国軍に移す手続きのことを指す。これは「自主国防」の理念と合致するものの、北韓による核の脅威や韓米同盟という現実的な制約を無視できないという指摘も根強い。              (ソウル=李民晧)

 「戦作権移譲は時期ではなく、条件で判断するべき」というのがこれまでの安全保障政策の大原則だった。しかし、安候補の発言により、この原則が揺らぎつつある。与党内部では「韓国軍の能力を信じるべきだ」という論調が依然として根強い。対米特使団に内定している金宇栄・共に民主党議員は、米国との間で戦作権移譲について議論すべきだと主張し、国防の自主性を強調した。一方、大統領室は「戦作権の問題は外交の切り札として使うべきではない」(魏聖洛・大統領室国家安保室長)として一線を引いた。
核兵器を保有する北韓の軍事的脅威は、戦作権移譲における最大の懸念事項だ。韓米両国はこれまでに、以下(1)韓国軍による核心的軍事能力の確保(2)北韓の核・ミサイルへの対応能力の整備(3)安定した地域安全保障環境の構築の3項目を移譲の条件として合意している。しかし、いずれの条件も、現時点で「十分に達成された」とは言い難い状況である。
戦作権の移譲をめぐる国防部、大統領室、与党間での足並みの乱れは、国民の不安をあおるだけでなく、米国に対しても信頼性の低下という悪影響を及ぼしかねない。「任期中の移譲」といった政治的な狙いや日程に基づくアプローチではなく、「条件の充足」を最優先すべきである。
戦作権の移譲において前提となるのは、韓国軍が単独で戦争を指揮し、勝利に導けるだけの能力を備えているかという点だ。「能力は十分」との主張もあるが、現実を直視すると深刻な問題が浮かび上がる。情報・監視・偵察(ISR)能力の多くを米軍に依存しているため、北韓によるミサイル発射の瞬間を察知する「目」と「耳」が韓国軍だけでは不十分なのだ。
米軍依存の状態で戦作権を移譲しても、実利を確保するのは困難だ。さらに、北韓は核・ミサイルのみならず、在来式兵器(通常兵器)の近代化にも注力しており、ウクライナ戦争への派兵などにより現代戦の経験も蓄積している。こうした状況の中、韓国軍は戦作権の整備において北韓の軍事的進展に追いつけるのか疑問が残る。
7月9日に米国上院が可決した国防授権法(NDAA)には、在韓米軍の削減制限と戦作権移譲の延期が盛り込まれている。これは指揮系統に対する米国の見方を示しており、韓国与党内の意見とは真逆の動きとなっている。
戦作権移譲に伴い、指揮系統の二元化という懸念も存在する。「One Team」として運用されてきた韓米連合体制が不安定になる恐れがあるからだ。政府には名分より国益、時期より条件の充足という冷静かつ現実的な判断が求められている。

韓米連合軍が5月22日に実施した連合・合同義務支援訓練。左が米軍、右が韓国軍

 


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