金永會の万葉集イヤギ 第60回

舎人たちの歌(万葉集171~193番歌)
日付: 2025年07月23日 09時26分

 178番歌を見てみよう。

 御 立爲之
嶋 乎 見時 庭 多泉流 涙止 曾
金 鶴

皇子があそこに立っていらっしゃったのね。
島を見るたびに、庭にある多くの泉からは水が湧いたね。けれど、私たちは溢れ出る涙を堪えねばならないね。
寒風が吹く。


極めて文学的な作品だ。泉から湧く水と、自分たちが堪えなければならない涙とを見事に対比させた。万葉集の作家たちは、現代の作家たちと比べて少しも遜色がない。
草壁皇子(662~689年)は天武天皇の子で、母は持統天皇である。没後天皇に追尊され、諡号は岡宮御宇天皇である。諡号の「岡宮」は舎人たちの歌に出る嶋宮を指したものだ。
草壁皇子は681年2月に皇太子に冊封された。5年後の686年に天武天皇が重態になるや、天皇の権限を母親と共同で委任された。同年9月、天武天皇が亡くなった。父親の死から3年後の689年4月13日、28歳で死去した。彼の夭折は日本の古代史を変える事件だった。

 180番歌。

御 立爲之
嶋 乎 母家 跡
住鳥 毛 荒 備 勿行
年替 左右

皇子が立っていらしたりしたものね。
嶋宮へいらっしゃる母と女人たちについて行ってみた。
飼われていた鳥たちは荒野へ行かず残っていた。
年が変わっても。


草壁皇子の死後、年が変わった時の作品だ。持統天皇と女人たちが嶋宮を訪れていた。おそらく追悼行事があったのだ。草壁皇子が飼っていた鳥たちは、飛んで行かずに池に残っていた。

181番歌。

御 立爲之 
嶋 之 荒礒 乎
今見 者
不生有之草 生
來 鴨

皇子が立っていらしたりしたものね。
嶋宮の荒々しい岩。
いま見えるね。


生えていなかった草が、生えている。
年が変わるや嶋宮の岩に、以前は見えなかった草が生えていた。舎人たちが荒れる嶋宮を残念がっている。

舎人たちの歌(万葉集171~193番歌)

<続く>


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