李在明新政権の統一部長官候補に指名された鄭東泳氏が、「統一部の名称変更を検討すべき時期にきている」と述べた。「南北関係部」や「平和協力部」などが新名称の案として挙がっているが、これに対しては「政治的、外交的に国益に反する」などと批判する声が高まっている。韓国の憲法では「南北韓は一つの国家である」と明記していることから、名称変更は憲法違反に当たる可能性がある。さらに、北韓政権による「敵対する二つの国」発言に引きずられ、統一の対象である北韓住民の存在を無視しているとの批判も出ている。
(ソウル=李民晧)
■統一など止めよう!
統一部長官候補の鄭東泳氏は、南北関係を馬と馬車に例え、「平和が馬で統一が馬車だ」と語り、まずは関係改善に力を入れるべきだと主張した。統一部の名称変更を求める今回の主張は昨年9月、文在寅政権で南北首脳会談準備委員長を務めた任鍾晳・元青瓦台秘書室長の認識とも重なる。
任氏は当時、「統一など止めよう! すべての法制度と政策から『統一』という言葉を省こう」と発言し波紋を広げた。自らを統一運動家と名乗ってきた任氏が、北韓の金正恩総書記が南北関係に対し唱えた「敵対する二つの国」の主張に追随しているのではないかとの批判が相次いだ。
■憲法と矛盾…北政権への忖度か
統一部の名称変更が問題視されるのは、それが国の根幹を成す憲法と関係するからだ。大韓民国憲法第4条等には、「自由民主的基本秩序に基づく平和的統一」が国家の基本方針として明記されている。大統領の就任宣誓文にも「平和統一のため努力する」との一文が含まれている。こうした中で統一部の看板から「統一」を削除してしまえば、憲法に掲げられた価値そのものと矛盾する結果になりかねない。
一方、北韓政権はすでに「統一」という言葉自体を排除している。金正恩は南北韓を「敵対する二つの国」と定義し、住民には「統一」という言葉の使用を禁じている。金日成と金正日の遺訓である統一路線を放棄した金正恩に対し、なぜ韓国が政府機関の名称まで変更し迎合する必要があるのかと問わざるを得ない。
統一部という名称は、韓国の統一への意思そのものであり、国際社会にもその姿勢をアピールする狙いがある。よって名称を変更した場合、国際社会に対し「韓国は北韓との統一を放棄した」との誤ったシグナルを送る恐れがある。また、統一の対象である北韓住民に対しても、「韓国はもう統一を望んでいない」との印象を与えかねない。名称を変えたからといって、北韓の態度が軟化し南北関係が改善する保証もない。
鄭候補は、盧武鉉政権下でも統一部長官を務め、開城工業団地の着工や金正日との会談などを取り仕切ってきた。同氏が北韓を6カ国協議のテーブルにつかせた、と評価する声もある半面、当時の米国政府は「まったく目新しさはない」と冷ややかな反応を示していた。
新政権は、民間人による対北ビラの散布を厳しく取り締まっている。憲法裁判所で「表現の自由」と認められた行為であるにもかかわらず、罰則を科すことも辞さない構えだ。「統一」の文言を削除することは憲法の精神に反しており、実利も見込めない。
拉致被害者家族連合会による対北ビラ散布の様子