先月21日、北韓の清津(チョンジン)造船所で駆逐艦の進水の際に横倒れするという大事故が発生した。当初は、進水予定だった駆逐艦に問題があったとの見方もされたが、横滑りで進水する方法に問題があったようだ。
駆逐艦が建造された清津港(1959年から始まった北送事業の際、新潟港を出港した帰国船に乗り込んだ在日同胞たちが、最初に北韓の地へと足を踏み入れた、因縁深い港でもある)は、構造上「横滑り進水」しかできない。過去、何隻も進水させてきたにもかからず、今回失敗した要因は、準備不足と突貫工事、すなわち北韓の悪弊である「速度戦」が事故をもたらした可能性が高い。さらに、東海(日本海)側に駆逐艦を配備する目的もあったようだ。
復旧は困難ともいわれていたが、北韓国営メディアは6日、「5日午後までに同艦を安全に縦に進水させて埠頭に係留した」と報じた。3日に撮影された衛星画像からも駆逐艦が直立していることが判明している。横倒れから直立させることすら、極めて困難と見られていたにも関わらず、北韓が駆逐艦を直立させ、進水させたことは間違いない。
しかし、作業は理不尽な指示を繰り返す金正恩総書記の介入により混乱を極めていたというのが、内部のデイリーNK情報筋の話だ。朝鮮労働党軍需工業部は、「復旧するために、ロシア製クレーンの導入が必要」との報告を行ったが、報告書を目にした金正恩氏は、「事故のことを全世界に公開しただけでも面目を失っているのに、そこへ外国のクレーンまで導入するのは国の恥を重ねることではないか」と激怒したという。それだけではなく、正恩氏の苛烈な反応が、現場にさらなる混乱を生じさせている。
情報筋は、「軍需工業部も清津造船所も、今は大混乱でてんやわんやの状態だ。下手なことを口にすればすぐに首が飛ぶので、みな身をかがめている」と語った。事故の責任を問われ、すでに軍需工業部のリ・ヒョンソン副部長ら四人が拘束されており、幹部たちは皆”明日は我が身”とばかりに、火の粉を避けるのに必死だ。また、処罰を恐れて責任を押し付け合い、艦の損傷状況を過小に報告するなど、事実の隠ぺいも図っている。
中央には「6月中旬までには修復可能な軽微な損傷」と報告されているが、実際には船底の外板が約12メートルにわたって歪み、船底に破孔が生じたところもある。また、補助発電室、兵士の居室、艦橋下の制御室が浸水し、甲板上の電子通信装備や固定アンテナも破損したという。
北韓メディアは、「精密復旧作業は、羅津船舶修理工場の乾ドックで行われる予定で、作業期間は7~10日間を見込んでいる」「趙春龍書記(労働党軍需工業部長)は、艦の完全な復旧は党中央委員会第8期第12回総会の招集前に間違いなく完了する」と強調するが、正式に進水したとして果たして戦闘可能な「軍艦」として機能するのか? または信頼性を回復できるのか、極めて疑わしい。
高英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。