大統領就任の当日に、相手国の大統領が祝いの電話を入れるこれは韓米間で長年続いてきた暗黙のルールだ。しかし今回、その慣例が破られた。韓米首脳の電話会談が実現したのは、就任3日目の夜だった。米国による「コリア・パッシング(韓国外し)」説が現実味を帯びるなか、韓米同盟は新政権の発足直後から試練の場に立たされている。
(ソウル=李民晧)
4日午前、国会ローテンダーホールで開かれた第21代韓国大統領の就任式に、米国代表の姿はなかった。招待されなかったからだ。外交部は当初、駐韓外交使節団の団長国であるモロッコ大使を招待客リストに載せたが、これも実現しなかった。
弾劾に伴う簡素な就任式とはいえ、米国大使や在韓米軍司令官が欠席したのは異例だ。自国第一主義を掲げるドナルド・トランプ氏が大統領を務める米国の状況と、韓国を取り巻く安全保障情勢を踏まえれば、米国代表を招待しなかったことは「誤解」を招く恐れがある。かつて「反米的」とも評された文在寅元大統領の就任式には、在韓米軍司令官が出席していた。
こうした状況を受けてか、トランプ大統領はこの日、就任した李在明大統領に電話を入れなかった。これまで歴代韓国大統領が就任すると、最初に祝賀の電話をかけるのは米国大統領の慣例であり、通話の内容は即座に発表されてきた。
異例ともいえる対応だが、その理由については両国とも口を閉ざしている。一方で、3日(現地時間)に行われたホワイトハウス報道官のバックブリーフィング(非公式会見)は、憶測を呼ぶのに十分だった。
「韓国は自由で公正な選挙を実施した。しかし米国は、世界中の民主主義国家に対する中国の介入(interference)と影響力(influence)に懸念を示し、反対している」
同盟国の大統領当選を祝う前に、突如として中国に言及したことは前例がなく、非礼だと受け取られても不思議ではない。その後、米国は国家安全保障担当のマルコ・ルビオ国務長官を通じて祝賀声明を発表した。ルビオ氏は国家安全保障補佐官も兼任している。同日、ホワイトハウスが発表した韓国関連の内容は完全に別物だった。
危惧される外交・安保分野の人事
米側の対応について、韓国外交部は「米国による中国に関する発言は、韓国大統領選とは別の問題である」との見解を示し、米国政府も同様の立場を示したと記者団に伝えた。
外交部がこうした説明を行った背景には、中国政府の反発があり、それが誤解を招く事案だとみなしたものと考えられる。中国外務省はホワイトハウスの発言に対し「分断をあおるな。いかなる国の内政にも干渉したことはない」と反論。韓国を巡り、米中が牽制し合う構図が浮き彫りとなった。
国内ではさまざまな解釈が飛び交っている。米国が中国に言及したことについては、トランプ政権が韓国の新政権に対し、「中国包囲網への協調」や「中国との距離の確保」を促すよう事前に釘を刺したのではないかとの見方だ。
政界からは「コリア・パッシング」が現実化しつつあるとの声も出ている。ホワイトハウスの発言と、祝賀の電話が3日遅れたことがその根拠だ。大統領室は「時差の影響」と説明したが、後手に回った印象は否めない。
また、李大統領の外交・安保分野における初の人事も懸念されている。国家情報院長候補に指名された李鍾碩氏は、盧武鉉政権下で統一部長官を務め、南北首脳会談を主導した人物である。大統領室は李氏を候補に挙げた理由に対し、国家安全保障会議(NSC)常任委員長を歴任し、国情院の情報収集能力と伝達体制を強化した実績を評価したと説明するが、李鍾碩氏には親北・反米的傾向があるとの指摘が根強い。北韓との関係については「内在的アプローチ(北韓の視点を考慮すべき)」を提唱し、韓中関係を「米・加関係に類似している」と見るような独特の認識を持っている。
李大統領が大統領候補時代に掲げた「現実主義外交」もまた、文在寅政権時に展開された「戦略的曖昧性」や「韓半島のバランス論」と軌を一にする可能性があると指摘されている。万が一、過去への回帰となるならば、韓国が自由民主主義陣営から孤立する状況が再び訪れるかもしれない。
※「コリア・パッシング」…韓半島問題について、韓国が排除され、米国・日本・中国などの周辺国だけで議論が展開される外交的現象。
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6日夜、官邸でトランプ大統領からの電話を受ける李在明大統領。就任3日目にしてようやく実現した(写真=大統領室)