今回は韓国経済の現状を概観した上で、韓国社会に見られる、「中国本土に対する警戒」の様子を眺めてみたい。
[韓国経済の現状]
韓国経済の現状は「まだら模様」であると言わざるを得ない。こうした中、韓国では「営業利益で利払いすら出来ない企業がこの3年で2倍以上に増えた」と報告されており、事態は深刻であるとの見方も出ている。
また、米中の関税戦争の影響で世界的な景気後退への懸念が高まる中、韓国企業も経営のスリム化に取り組んでいるが、それだけでは十分ではないとの見方も出ている。これまで内需の不振が続く中でも輸出が経済を支えてきていたが、今や輸出環境まで悪化し出口が見えない状態となっているとの見方まで出始めているのである。
今後、韓国経済を持ちこたえるには、厳しい構造改革と企業に対する規制緩和、労働市場の先進化など、国家的に根本的な対策に取り組まねばならない。
韓国国内では、「韓国経済を動かす3大エンジン」である消費、投資、輸出のいずれも懸念される状況となっている。
少子高齢化に伴う全般的な内需不振と成長潜在力低下など経済体力が落ちている状況に非常戒厳、旅客機事故、大規模な山火事などの悪材料が重なったためである。非常戒厳後に急激に低迷した消費は、第1四半期にも回復しなかった。
韓国銀行のイ・チャンヨン総裁は米国のCNBCのインタビューで、「貿易の緊張が韓国経済には逆風となり、成長の下振れリスクが大きくなった。暗いトンネルに入っていくような感じである」とコメントした。
韓国経済はまだら模様から悪化の道をたどっていくかもしれない。注視したい。
[中国本土に対する警戒]
さて、上述したように韓国経済に不透明感が見られる中、韓国国内では、「中国本土に対する警戒」が以下のような視点から見られている。
韓国国内では、健康保険の保障内容を強化する、いわゆる文在寅ケアの施行後、単なる頭痛で脳のMRI検査を受けた中国人が9倍近くに急増したことを受けて波紋が広がっている。
韓国の国民健康保険公団が国会保健福祉委員会所属で、国民の力のソ・ミョンオク議員の事務所に提出した資料によると昨年、脳や脳血管のMRIを受けた患者数は135万6778人で、17年(48万2051人)に比べて2・8倍増加したが、そのうち中国人に限ると5291人から2万185人と3・8倍増となり、全体よりも増加幅が大きかった。
とりわけ、頭痛を理由にMRI検査を受けた患者の数は17年の7250人から昨年は3万8287人へと5・3倍増加し、中国人は99人から871人へと8・8倍も増加していた。
問題は外国人健康保険加入者のほぼ半分を占める中国本土国籍者が、保険料を支払わずに健康保険の恩恵を受けるケースが少なくないことである。
中国人は外国人健康保険加入者が多い10カ国のうち唯一、赤字となっている。19年987億ウォン、21年109億ウォン、22年には229億ウォンの赤字を記録している。
この問題で不満の声が相次いだことを受けて、韓国政府は昨年4月以降、韓国に入国する外国人と在外国民の健康保険加入者の被扶養者要件を強化し、6カ月以上の居住を条件とした。
上述したソ議員は、「外国人による健康保険のただ乗り問題は今も続いている」とした上で、「中国人のただ乗り問題と過度なMRI検査を防止するなど、健康保険財政の健全性を確保する制度の改善が急がれる」と指摘している。
極めて妥当な指摘である。ところでこうした事態は、日本に同様のケースが発生していないであろうか?
日本国民の水面下の不満も韓国同様、高まってきているのではないだろうか。
以上、少しでもご参考になれば幸いである。
(嘉悦大学副学長、愛知淑徳大学名誉教授 真田幸光)