尹錫悦大統領は2月25日、自身の弾劾に対する最終陳述で「国政の舵取りをする中で、表出されない問題を多く目にしてきた。ゆでガエルのように迫り来る困難に気づかず、崖っぷちへと進んでいるこの国の現実を目の当たりにした。まさに国家存続の危機だ」と述べた。表面上は何ら問題がないように見えても、国内の環境は戦争に匹敵するほどの危機的状況であるという意味だ。最終弁論の中で明かされた国家存続の危機を示す例は次のとおりだ。
(ソウル=李民晧)
韓国社会で横行しているフェイクニュースや世論操作、プロパガンダ(大衆扇動)は、社会的な混乱を引き起こす病巣だ。国の安全保障を脅かすこれらの原因について、尹大統領は「北韓など外部の主権侵奪勢力と、韓国社会内部の反国家勢力の連携」と表現した。
具体例として挙げたのは、2023年に摘発された民主労総のスパイ団事件だ。労総の幹部らは当時、北韓の工作員と接触し軍事情報を北韓に提供した。彼らは北韓の指令を受けてストライキを行い、韓米合同軍事演習の反対集会を開いた。また、尹大統領就任直後の22年3月から24年12月までの期間、計178回にわたり「尹錫悦弾劾集会」を開いた。
「この時代にスパイなどいるわけがない」という声もあるが、「スパイ」がいなくなったわけではなく「韓国の体制を転覆させるための活動」へと進化している。ところが、民主党政権によって24年1月から国情院の対共捜査権が剥奪された。加えて、専門性に乏しい警察に捜査権が移管され、より「スパイに優しい」環境が形成された」(尹大統領)。
民主労総を擁護する巨大野党
民主労総に加え、その後も昌原や清州、済州など全国各地でスパイ団事件が発生したにもかかわらず、裁判の中断などにより容疑者が釈放され、目と鼻の先にいるスパイですら捕らえることが不可能な状況になった。
「こうした現状においても、巨大野党は(北韓の指令により大統領の弾劾を主導した)民主労総を徹底して擁護している。さらには国情院の対共捜査権剥奪に続き、国家保安法の廃止まで主張している。警察の対共捜査に使われる特殊活動費でさえも0ウォンへと全額カットした」
以上のように述べた尹大統領は「こうした野党の行為は、スパイを捕まえてはならないという意味に等しい」と指摘した。続いて、中国人による主要軍事施設の偵察行為と産業スパイの急増などを阻止するためにはスパイ罪(間諜罪)の法改正が必要だが、それさえも巨大野党が阻止していると訴えた。
「第1次大統領弾劾訴追案の弾劾理由に『北韓、中国、ロシアを敵視したこと』が挙がったということは、190議席に達する独裁状態の巨大野党が、韓国側ではなく、北韓、中国、ロシアの側に立っているということだ。(中略)自由を否定する共産主義、共産党一党独裁、唯物論に基づく全体主義が国内に浸透することを阻止しなければならない。自由民主主義国家の政党として、これらの勢力と手を組んではならないのだ」
内乱ではなく野党の暴走阻止
尹大統領は同日、非常戒厳を発令した理由に対し「武力で国民を抑圧するための戒厳令ではなく、戒厳令の形をとった国民への訴えだった」と述べ、野党の暴走を阻止するための必要不可欠な決断であり、内乱を謀ったものではないと主張した。「非常戒厳令の目的は、国が存続の危機にあるという状況を広く知らしめ、憲法制定の権利を持つ主権者たちに立ち上がってほしいと訴えるためだった」と述べた。68分に及ぶ最終陳述の中で最も多く言及した単語は「巨大野党」で計44回だった。「スパイ」は25回、「北韓」には15回言及し、文字数は計1万5033文字だった。
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2月25日、憲法裁判所で開かれた弾劾審判で、最終弁論を行う尹錫悦大統領