次は「148番歌」。
青 旗 乃 木 旗 能 上 乎
賀 欲 布 跡
羽 目尓者
雖
視 直 尓 不相 香 裳
青い竹に旗をかけて行くわ。他の木々にも旗を当然かけねばならないはず。
天智天皇の生前の業績を称えることを願う(賀欲)と、広く布告せよ。
鳥が飛んでいくのが見えるさ(羽 目尓者)。
といえども(行かないでと止めても頑固に立ち去る)。
(天皇に)見えるよう、まっすぐ上げなさい、天皇に私のチマ(裳)が。
題詞によれば、148番歌も天皇が病気になったとき倭大后が捧げたものとある。明らかに死後の作品だ。
題詞がまた間違った。青木は竹だったはずだ。古代に竹は神と疎通する木だった。今も神社に行けば神との疎通に竹を使っているのをみることができる。青い竹に女性のチマ(裳)を高く掛けておいた。
「見えるように、まっすぐ上げなさい、天皇に私のチマ(裳)が」という最後の一節は、天皇に見えるように自分のチマを高く掲げろという意味で解読される。
郷歌でチマは妻を意味している。「あなたは私との同衾がお好きだったではないか。私を忘れずに戻ってください」という倭大后の念願だった。
旗は今日の「挽章(輓詩を書いた物で棺の輿に従わせる)」である。チアに涙歌を書いたはずだった。
次は「149番歌」。
人 者 縱
念 息 登母
玉 蘰 影 尒 所 見乍
不 所 忘 鴨
人々が右往左往しているわ。
その方を思いながら息を潜めないと。
玉のように美しい方の幻影が見えるね、ちらりと。
私、貴方を忘れない。
倭大后の作品である。本作品の解釈においては「蘰」の字が解読の最大難所だ。この字は破字法で解かなければならない。
蘰は草かんむり(二十)+縵(柄のない絹のみ)で作られた文字だ。破字法で「二十着の柄のない絹の服」という意味になる。絹の服を着た天智天皇のことだ。
「鴨」という字はとても重要だ。古代人は「人は死ぬと魂が鳥になってあの世へ行く」という来世観を持っていた。現代の鳥居は、このような来世観の痕跡と見るべきである。
神も勝てなかった君(天智天皇への涙歌9首)
<つづく>