韓国のエンターテインメント産業は、KPOP、韓流ドラマ、映画など幅広く日本で人気となっている。最近では韓国の書籍が日本市場で注目を集め、多くの翻訳書が出版されるようになった。出版マーケットでプレゼンスを高める韓国の書籍について取材した。
■韓流ブームで劇的に変わった日本市場
2003年にテレビドラマ『冬のソナタ』が日本で放映され、韓流ブームが起こるまでは、日本で出版される韓国の書籍は少なかった。1950年代は書店に並んでいるのは北韓の小説や詩。それも専門書店や大型書店に行かなければ目にすることはなかった。一部の思想家、知識人などが読むもので、一般人のニーズはごく限定的であった。70年代に入り、『長い暗闇の彼方に』(金芝河)、『長雨』(尹興吉)などが出版され、1984年にNHKで「ハングル講座」が放送されるようになったことで、語学教材なども書店に並ぶようになったが、それでも韓国関連本のマーケットは狭かった。
2003年の韓流ブーム以降、大きく様変わりした。映画やドラマなど韓流コンテンツ関連の書籍・ムック、KPOPアイドルのファンブック、写真集などが出版されるようになり、市場は拡大した。だが現在のように文学作品が注目されることは少なかった。
■ファンの裾野が広がる
転機となったのは2018年に出版された『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)。
韓国でも大ベストセラーになったこの本は、日本でも話題を呼んだ。韓国社会における女性の生きづらさを描いた作品で、日本でも多くの共感を集め、ベストセラーとなった。韓国のジェンダー問題や労働問題、家父長制に対する批判を描いた本が、日本の若い女性や知識層の間で共感を呼んだ。
日本と韓国は社会構造が似ている部分が多く、韓国の社会問題を扱った書籍が、日本の現状と重なる点で多くの読者の心をつかんだといえるだろう。
2019年に出版された『私は私のままで生きることにした』(キム・スヒョン著)も韓国の書籍ブームに火をつけた。現代社会において他人の期待や社会のプレッシャーに振り回されず、自分らしく生きることの大切さを説いたイラストエッセイ集。
これ以降、女性をターゲットにしたイラストエッセイが人気の中心になっていく。
韓国文学が近年、国際的な評価を高めているのも日本でのマーケット拡大の後押しをした。
昨年ノーベル文学賞を受賞した韓江や、英訳版が世界的に評価されたチョン・セランの作品は、日本でも圧倒的な支持を集めている。韓江がノーベル文学賞を受賞した時点で、すでに日本では8冊の作品が出版されており、多くのファンが存在したがノーベル文学賞受賞でさらに拡大することになった。
また今後は電子書籍やオーディオブックの普及により、さらに手軽に韓国の書籍を楽しめる環境が整った。韓国ウェブ小説やウェブトゥーン(漫画)も日本で急速に人気が高まっており、これらのコンテンツと書籍の融合が進む可能性もある。
今後も多様な韓国の作品が日本で紹介されることで、両国の文化交流がさらに深まることが期待される。
■留意すべき側面も
一方で、懸念される部分もある。文学作品などに書かれている史実やその解釈などは必ずしも真実ではない。韓国では映画、ドラマ、書籍などが政治利用されてきた側面もある。本は、読者の思考や価値観を変える大きな力を持っており、特定の思想や信念を植え付けるために利用されることもある。
内容を盲信せず、娯楽として読むのか、知識を得るために読むのか、それとも特定の思想を学ぶために読むのかを考えることが大切だろう。
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■韓国書籍の読者増を実感 K-BOOK振興会
2019年から開催されている「K-BOOKフェスティバル」。同イベントを共催、日本での韓国書籍のマーケット拡大に尽力してきたK-BOOK振興会では日本での韓国書籍の広がりについて次のように話す。「韓国が日本の文化を受け入れるときに音楽、映画などが先行するなか、本は一番最後に受け入れられた。日本でも同様だと考え、地道に活動を続けてきた。コロナなど難しい時期もあったが年々、読者は増えていると実感。昨年11月に行われた第6回のフェスも大盛況のうちに終わった。今後も日本の読者に韓国書籍の魅力を伝えていきたい」