「万葉集イヤギ(物語)」の連載開始からもうすぐ1年を迎える。実は、郷歌と万葉集は1000年以上、しっかり解読されなかった。古代の歌の制作や表記法を後代の人々が知らなかったからだ。郷歌制作法の秘密を数年前、筆者(金永會・東国大学郷歌万葉集研究室長)が究明。万葉集を解読できたのは、古代韓半島の郷歌と万葉集の歌の制作法が同じだったからだ。古代韓半島語と古代日本列島語は語彙と語順、そして表記法まで同じだった。この発見は、今回の連載を通じて斉明天皇の新しい姿に接したことなどでも皆が分かったと思う。
筆者が万葉集を解読して見たところ、単純な歌集ではなかった。数多くの歌には天皇家はじめ、様々な人々の切実な願いが込められていた。郷歌は願い事を叶える呪術的魔力のある歌だ。万葉集の作者たちは「万葉の神様」が歌詞の通り、ことを叶えてくれると信じた。言霊信仰、言霊思想の文化だ。個別の歌も願い事を叶えてくれるが、多くの歌を集めればより大きな力を発揮すると信じた。筆者が万葉集のうち750首を解読して見たら一つの目的・念願のために編纂されたことが明確だった。誰かが散らばっていた歌を集め、天皇家の安泰「万世一系」が永久に続くよう、周密に体系化しておいた。それが万葉集だ。このような能力を持った歌人は、万葉集の華といえる額田王や歌皇の柿本人麻呂を除いては考えられないと思う。筆者は万葉集の最初の編纂者を額田王と見たい。
「万世一系」は、万葉集の数多くの歌の念願が生んだ途方もない巨大な力によって支えられてきたと見るべきだ。ところで、厳重に秘されねばならない天皇家の最高秘密がどのように皇室の外に流れたのだろうか。おそらく「衆口、金をとかす」ではなかったかと思う。
新年にはこの連載を通じ、百済救援に失敗した後の事情が収められた万葉集の1000年の秘密を紹介したい。万葉集には、日本書紀と続紀には記録されていない古代史の謎、特に皇統・皇位が天武系から天智系に替わる歴史を生きた人々の息づかいが生々しく記されていた。今年、皆さんを歴史の息づかいへと招待する万葉集の主人公たちとその舞台は概ね次の通りだ。
まず、百済救援に失敗した中大兄皇子は第38代の天智天皇に即位、近江国への遷都など西征の敗戦を収拾し、息子(大友皇子)を後継者に指名したが、弟の大海人皇子との葛藤の末、「壬申の乱」の政変が起き、勝利した天武天皇の時代が開かれる過程を紹介する。
天武天皇(大海人皇子)は、謀叛の防止のため鸕野讃良皇后(後の持統天皇)と草壁、大津など6人の皇子たちが「吉野の盟約」をするよう図った。だが、天武天皇の死後、誓約は守られず、「壬申の乱」の秘密は、額田王の娘(十市皇女)の死を通じて明らかになる。
天智天皇の娘で天武天皇の正妃だった持統天皇が一人息子の草壁皇子を亡くし彷徨い悩んだ事情と、持統天皇の孫の文武天皇、持統天皇の妹でかつ嫁の元明天皇の登場。そして、千年京都の時代を開いた百済系の高野新笠皇太后と息子の桓武天皇の登場までを紹介する予定だ。