全く違う解読である。一節ごとに、核心の言葉だけを説明する。
高山 波 雲 根 火
高い山に雲煙を立てながら火を起こしている
「火」は高い山で火をおこしながら厄払いする行動と判断される。
雄 男志等 耳 梨與 相諍 競伎
男たちが山に先を争って祈っている
「雄」は中大兄皇子のお付きの者たちである。
「男志」は男たちが自分の願いを書いた紙のことだと思われる。武運を祈ったはずだ。厄払いの材料だっただろう。
「梨」は郷歌と万葉集で「老人」を意味する。梨の皮にある黒っぽい斑点を、お年寄りの顔にできる黒いシミに例えた表現だ。
「伎」は万葉集でよく使われる。俳優や倡優など芸人のことだ。日本書紀の天武四年二月十三日条に「伎人を選んでたてまつれ」という節がある。
神代從 此尒有良 之古
神山を代々仰いでいる。ずっと続いているさ。続いて(いるさ)
「神」は山である。
「尒」は美しい形という意味だ。万葉集では主に「海を穏やかにして下さい」と万葉の神様に祈る文字だ。
「良」は「吉」の意味で、百済への派兵軍が勝利するよう祈る文字として機能する。
昔 母 然 尒 有 許曾
昔からこの山は女たちが火をおこしながら祈る山なのさ
「然」は「燃」で解かなければならない。
「曾」は「甑(こしき)=蒸し器」に水が流れるように火をおこし、煙で涙を流せという意味である。
虛蟬毛 嬬 乎 相 挌良 吉
蝉の殻から蝉が出るように、偉くなる子が順調に安産できるようにと女たちが互いに争うかのように祈る山なのさ
「虛蟬毛」が核心の節だ。「虛蟬」は蝉が成虫になるとき脱皮した抜け殻である。
女人たちには、蝉の成虫が殻から出るように子供を安産できるようにと祈る意味の厄払いの材料だったはずだ。「毛」は髭を生やした指揮者だ。
ところで、万葉の神様は、蝉の殻を命が抜けた空の殻として理解した。
「虛蟬」の一節をこのように誤解したため、後に、韓半島の西海岸の白村江河口で、数万人の水軍が滅びた。まるで蝉の殻から成虫が出るように、指揮者や兵士たちが船から海に落ちて水葬されてしまったのだ。残酷な呪いの節が、後に現実になってしまった。
万葉集の編纂者は、この節の意味を完全に分かっていたので、この13番歌を万葉集に収録したのだ。この句を知らないで白村江の敗戦を語る歴史は、それこそ「殻」の歴史と思う。
蝉の抜け殻の呪い(万葉集13、14番歌)
<続く>