北韓とロシアの関係が日増しに強まっている。金正恩総書記は、9月に訪朝したセルゲイ・ショイグ安全保障理事会書記長(前国防相)、11月にはコズロフ天然資源環境相、ベラウソフ国防相と会談した。
北韓外交政策のキーマンである崔善姫(チェ・ソニ)外相は、9月と11月にロシアを訪問。異例の頻度で両国の要人の往来が活発化する背景には、朝鮮人民軍(北韓軍)がロシアとウクライナの戦争に派兵されていることが関係しているとみられる。
トランプ次期政権を見据えて、両国の関係はますます親密になっていくだろう。こうしたなか、政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は11月26日、ロシアに派兵された北韓軍の死傷者を米国防総省の当局者が初めて確認したと報じた。
報道によると、この当局者はRFAに対し「北韓軍の死傷者がロシアのクルスク地域で発生した」としながらも、兵力の被害規模には言及しなかった。米当局者がロシアに派兵された北韓軍の死傷者発生を確認したのは今回が初めてである。
被害規模は明らかになっていないが、時間とともに多数の死傷者が発生する可能性は高い。
北韓は死亡した兵士について、遺族に詳細な事実を知らせず、隠蔽する方針を固めているという。また、負傷者は本国に帰還させ、治療するということだ。しかし、本国でまともな処遇を受けられるかは微妙だ。
北韓では、日本からの解放前に故金日成主席とパルチザン闘争を行ったとされる人々とその子孫が、最も高い階級を占めている。そして、1950年代の朝鮮戦争で戦った元兵士らは「戦争老兵」と呼ばれ、パルチザン出身者に次いで尊敬の対象とされてきた。様々な福利厚生の恩恵を受け、社会的にも高い地位を持っていた。
しかし、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、福祉システムが機能しなくなり、今では貧困に苦しむ人が少なくない。咸鏡南道(ハムギョンナムド)の北青(プクチョン)では昨年末、ある戦争老兵が病院で診療拒否に遭い、路上で亡くなる事件が発生したと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。この話は、口コミネットワークを通じて、地域一帯にあっという間に広がった。
社会的に支援の対象である戦争老兵ですら冷遇される現状に嘆息する人もいれば、国の福祉政策を非難する人もいた。「国は、戦争老兵の革命精神に学ぼうなどとありとあらゆるプロパガンダに老兵を利用しているが、現実はこの有様だ。戦争が起きたとしても、誰がこんな国のために命がけで戦うだろうか」(地域住民)。
北韓当局が公に持ち上げてきた戦争老兵でさえ、この有様だ。派兵自体が秘密とされている「ロシア帰り」が、今後お荷物扱いされていく可能性は高い。
元兵士のある脱北者は、「北朝鮮はロシアに送った兵士らがひとりとして帰還するのを望まないだろう」とさえ言っている。欧州の戦場で傷を負った兵士らは、さらなる試練に直面することになるかもしれない。
高英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。