高永喆 韓半島モニタリング 第36回

トランプ氏2期の在韓米軍撤収は?
日付: 2024年11月26日 11時39分

 一部の専門家の間では、トランプ2期行政府は在韓米軍を撤収させる可能性が高いと言われている。しかし、結論から言えば在韓米軍の撤収はありえないと考える。
韓半島の地政学的位置は大陸勢力を牽制する最前線であり、米国にとって戦略的な要衝の地だ。したがって、世界最大の米軍基地が韓半島の西側沿岸・平沢に位置している。
米共和党の政策指針でも、米国の対中戦略の上でも韓国が重要という点が強調されている。
次期大統領のトランプ氏が就任すれば、在韓米軍駐留費の増額を強要するため、交渉手段として米軍撤収をカードとして使うことは想像できる。
しかし、在韓米軍が縮小する可能性はあるものの、米軍を全面撤収することはあり得ないと考えられる。
ちなみに、米国議会は2020年12月に上院と下院で在韓米軍を2万8500人以下に削減することを禁止する国防授権法を過半数以上の賛成多数で通過させた。
米議会は国防授権法を通じて、在韓米軍の兵力を最低2万8500人以下に減らすことを禁止したのだ。これより少なく在韓米軍の兵力を削減するためには、米国議会の承認を得なければならない。
したがって、次期トランプ行政府の在韓米軍完全撤収は事実上実現し難い。当選したトランプ氏の思惑は、在韓米軍の撤収や削減が目標なのではなく、それを交渉カードとして在韓米軍駐留費・負担金の増額を得るという意図である。
参考として、国際政治学者の李春根教授が「スカイデイリー」に寄稿したコラムを引用しよう。
「トランプ氏の防衛費増額要求を心配する人が多い。防衛費ではなく”在韓米軍駐留費用分担金”が正しい言葉だ。米国側の計算によると、在韓米軍の駐留費用はおよそ年間35億ドルで、23年に韓国は10億ドル程度を分担した。
さて昨年、韓国は1128億ドル(147兆ウォン)の石油を輸入した。トランプ1期の平均国際原油価格がバイデン在任期間より34%安かったので、私たちは今後、年間383億5200万ドル(約50兆ウォン)ずつ原油価格を節減することが出来る。トランプ氏が要求した100億ドルをすべて与えたとしても283・5億ドル(約37兆ウォン)が残る計算になる。
在韓米軍の駐留費用の総額が35億ドル程度だから、米国側は半分を私たちが払うことを望んでいた。
米軍駐留費用は年間35億ドルのうち、韓国が出す分は30%にも満たない10億ドル程度を負担しているが、これまで70年以上その資金のために損害を被ったことがあっただろうか?
休戦中の国を米軍が守ってくれたおかげで、安心してお金を稼いで世界10位圏に入り、国民は豊かな金持ちになったことを知らないのだろうか?」。
トランプ大統領は1期の在任中に金正恩の親書を受け取り、快く米朝首脳会談の席に座った。
その背景には、中国を牽制しようとする米国の外交路線に北韓が前向きに協力すると約束した可能性がうかがえる。
つまり、米国の外交戦略である中国包囲・牽制路線に、北韓が米国の味方になるという条件付きでCVID(完全核廃棄)政策の見直しを求める駆け引きをした可能性があったのではないかと推察される。
レーガン大統領が軍備競争を通じて旧ソ連を崩壊させたように、2期目のトランプ大統領は、中国に対する封じ込め外交路線を強化する見通しだ。
中国は、石油と食糧を自給自足出来ない。現状、世界最大の食糧輸入国であり、19カ国と国境線を接し周辺国に包囲されている。
一方で、米国は世界80カ国と同盟・協調している関係であり、世界最大の産油国かつ世界2位の穀物輸出国である。
韓米同盟と日米同盟は、韓半島の安保を保つ2本の柱であり、東アジアの平和を維持する礎である。遠い強大国と同盟して隣の強大国を牽制する「遠交近攻」と「勢力均衡」は、安保と平和維持の鉄則であることを再認識したい。

高永喆(コ・ヨンチョル)
拓殖大学客員教授、韓国統一振興院専任教授、元国防省分析官。著書に『国家情報戦略』(佐藤優共著、講談社)、『金正恩が脱北する日』(扶桑社)など。


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